2020 Fiscal Year Research-status Report
「身体鍛錬」から読み解くジェイムズ・ジョイス作品の身体表象と社会的背景との関連性
Project/Area Number |
20K12976
|
Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
田中 恵理 熊本保健科学大学, 保健科学部, 講師 (60829589)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / 身体表象 / 身体鍛錬 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ジェイムズ・ジョイスの作品における身体描写を「身体鍛錬」の観点から検証し、身体と社会的背景とのかかわりがどのように描かれているのかを読み解くことにある。令和2年度(2020年度)は、先行研究および歴史資料や最新の記録の収集と分析を行い、19世紀末から20世紀初頭のアイルランド社会の実態を調査した。 併行して、これまであまり注目されてこなかった、ジョイスの初期作品である短編集『ダブリナーズ』の男性登場人物たちの身体表象について、それらが世紀転換期のアイルランドの宗教・社会・政治状況を写実的かつアイロニカルに反映して描かれていることを明らかにした。最後の物語「死者たち」については、「身体鍛錬」を示唆する表現や男性的な強い身体を重視する主人公の価値観に注目し、それらを英国植民地支配の中で養われてきたアイリッシュ・アイデンティティとの関連から分析した。その成果は『九大英文学』第63号(2021年発行)に投稿した。 また、ジョイスの後期作品『ユリシーズ』の第12挿話で描かれる「市民」という男について、彼がゲール体育協会(GAA)創始者のマイケル・キューザックのモデルとされていることに注目し、身体鍛錬主義とアイリッシュ・ナショナリズムの関係やそれらに対するジョイスの姿勢を、GAA創立の本来の目的および第12挿話で用いられている実験的な語りの手法を示しながら新たな観点から考察した。その成果は2021年6月にオンラインで開催されるThe 27th International James Joyce Symposiumにて発表を行う。この国際学会は、2020年6月にトリエステで開催予定だったが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により延期されたものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の進捗はやや遅れているが、その理由は大きく二つある。一つは、膨大な数の資料を読み込むのに想定より時間がかかっており、19世紀末から20世紀初頭のアイルランド社会の実態解明にまでは至ってはいないからである。ただ、資料収集と分析はおおむね進めることはできているため、有益な知見は得られていると考える。もう一つの理由は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で調査や研究会および学会に行くことが不可能となったことにより、ジョイスの作品分析を行う上での知見を広げることができなかったからである。しかしながら、「身体鍛錬」が明示されている箇所については分析を進めることができ、論文誌への投稿と国際学会での発表につながった。なお、2020年6月に発表を予定していたThe 27th International James Joyce Symposiumは、新型コロナウィルス感染拡大のため2021年6月、オンライン開催に延期になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画通りの遂行を考えているが、新型コロナウィルス感染症の流行が収束しない限り、アイルランドへの資料収集(令和3年度計画)は不可能である。現地での調査がかなわない間は、オンライン上のデータベースや新聞などを有効活用して情報の収集に努める。研究会や学会への参加については、オンラインで開催されるものにはできるだけ参加して知見を広げる。蓄積された知見は早期にまとめ、新たな考察を提示した発表および論文誌への投稿につなげる。
|
Causes of Carryover |
国際学会に参加予定だったが、新型コロナウィルス感染症拡大のため延期になり、また、国内の学会や研究会についてもすべてオンライン開催となったため、それら旅費が発生しなかった。英文校閲費については、今回は謝金が発生しない形で依頼したため、計上しなかった。 次年度の使用計画については、オンライン開催の学会参加のためのオンライン環境の整備および効率的な資料の収集のためのオンライン契約に満てる。また、次年度に執筆予定の英語論文の英文校閲費に支出予定である。
|
Research Products
(1 results)