2021 Fiscal Year Research-status Report
「身体鍛錬」から読み解くジェイムズ・ジョイス作品の身体表象と社会的背景との関連性
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20K12976
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
田中 恵理 熊本保健科学大学, 保健科学部, 講師 (60829589)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / 身体表象 / 身体鍛錬 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ジェイムズ・ジョイスの作品における身体描写を「身体鍛錬」の観点から検証し、身体と社会的背景とのかかわりがどのように描かれているのかを読み解くことにある。令和3年度(2021年度)は、前年度に引き続き、資料の収集と分析を行うとともにジョイスの各作品における身体鍛錬の描写に注目しその意義について考察した。 資料の収集については、新型コロナウィルス感染拡大の影響で当初予定していたアイルランドでの実地調査は叶わなかったが、オンライン新聞契約やNational Library of Irelandのデーターベースの利用などを効果的に行った。それら資料を分析することとにより、アイルランドの身体鍛錬ははじめ英国のそれを模倣するだけのものであったが、やがてアイルランドのナショナリズムと結びついて反植民地運動の一つとして利用されたことが分かった。また、身体鍛錬とナショナリズムの関係性で論じられることの多いアイルランドの体育協会(GAA)について、当初GAAは政治的な組織ではなく、より融和的なものを目的としていたのが分かった。これら、アイルランドにおける身体鍛錬と歴史的背景が明らかになった意義は大きい。 ジョイスの作品における身体描写については、『ユリシーズ』(1922)の第12挿話で描かれる「市民」という男の身体描写に注目し、『ユリシーズ』執筆初期には、登場人物の名前としてマイケルキューザックが使われていたが出版時には「市民」になっていることの意義をGAA設立の目的や経緯、マイケル・キューザクの伝記的背景を記した資料、およびジョイスの手稿を精査し、身体鍛錬やGAAに対するジョイスの態度とのかかわりから考察した。その成果は、International James Joyce Symposiumでの発表およびJoycean Japanへの論文掲載により行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗はおおむね順調に進展している。その理由は2つある。一つは、新型コロナウィルス感染症拡大の影響でアイルランドでの実地調査ができなかったとはいえ、本研究の目的の一つである、19世紀末から20世紀初頭のアイルランドの歴史的社会的状況、特に身体鍛錬をめぐる状況については、オンライン新聞や研究書およびNational Library of Irelandのデーターベースなどを効果的に使用しながら少しずつ明らかになってきているからである。 二つ目は、もう一つの目的でもある、ジェイムズ・ジョイスの作品における身体表象の分析について、「身体鍛錬」の描写を軸に主に『ダブリナーズ』及び『ユリシーズ』にて読みを進めることができおり、論文の投稿も積極的に行っているからである。 加えて、「身体鍛錬」の描写から読み取れる、社会政治に対するジョイスの姿勢の解明についても計画通りに進めることができていると思う。なお、令和3年度(2021年度)は、前年度よりも積極的にオンライン研究会や学会に参加することができ、知見を広げることができたのも理由の一つとする。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は本研究の総括を行うことになっているが、新型コロナウィルス感染状況を考慮しつつ可能であればアイルランドに赴き資料収集(令和3年度計画)を行って「身体鍛錬」に関する最新の記録の収集を行いたい。その上で、まだ扱っていないジョイスの作品や挿話における身体描写の分析に努めたい。 令和2年度と令和3年度は「身体鍛錬」というキーワードから、男性の身体描写に注目することが多かったが、令和4年度以降は、女性の身体がどのように描かれているのか、「身体鍛錬」との関連性から考察できないか探りたい。得られた成果は学会発表および論文誌への投稿により世に発信する。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由としては、国際学会および国内学会に参加予定だったのが、新型コロナウィルス感染拡大のためにすべてオンライン開催となったため、それら旅費が発生しなかったためである。また、資料収集のためにアイルランドへ赴き実地調査を行う計画(14日間)をしていたが、それもできずに旅費が発生しなかったためである。 次年度の使用計画については、新型コロナウィルス感染拡大の状況を鑑みながら、可能であればアイルランドでの実地調査を行い、その旅費に充てたい。また、国内学会や研究会は対面での開催も少しずつ行われていることから、それらの旅費として支出予定である。
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Research Products
(2 results)