2022 Fiscal Year Research-status Report
「身体鍛錬」から読み解くジェイムズ・ジョイス作品の身体表象と社会的背景との関連性
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20K12976
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
田中 恵理 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (60829589)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / アイルランド / 身体表象 / 身体鍛錬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ジェイムズ・ジョイス作品における身体表象を「身体鍛錬」の観点から検証し、身体と社会的背景とのかかわりがどのように描かれているのかを読み解くことにある。本年度特に注目したのは、女性の身体表象である。前年度までの研究によって明らかになったのは、アイルランドの身体鍛錬、英国の植民地支配とアイルランドのナショナリズムおよびアイルランド体育協会(GAA)との関連性でありそれらは主に男性の身体と関わるものであった。しかし、例えば『ユリシーズ』第18挿話などジョイスの身体表象を論じる際は、女性の身体が問題になる。ジョイスの作品において女性の身体鍛錬の直接的な描写はないが、第一波フェミニズムや女性参政権運動が盛んになった19世紀末から20世紀初頭において、作家が女性の身体をどのように扱っているのかを探ることは重要と考えた。そこで、本年度は女性と身体表象についての学会発表を1件(「『エヴリン』におけるアイルランド性への回帰と船乗りの帰還」日本英文学会第94回全国大会)、シンポジウムを2件(‘A Revaluation of Women's Bodily Descriptions in Ulysses' IASIL Japan The 38th International Conference Ulysses and Beyond、「モリーの独白における身体表象の書き換え」日本英文学会九州支部第75回大会)行った。これら発表を行うなかで、女性の身体鍛錬についてもサイクリングの描写を通して検証できることが分かった。本年度はまた、日本国内でのジョイス研究の推進にも貢献できた。2022年2月から1年間全22回の連続オンラインイベント「22 Ulysses-ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』への招待」の発起人の一人となり上記成果発表や講師の講演を計画・実施することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗はおおむね順調に進展している。その理由は2つある。一つは、本年度も新型コロナウィルス感染症拡大の影響でアイルランドでの実地調査はできなかったが、オンライン新聞やNational Library of Irelandのデータベースおよび種々の研究書を使用しながら基本的な情報を収集できているからである。二つ目は、前年度の研究の成果として執筆した雑誌論文"The Failure of the Old Tinbox Throw: The Emptiness of the Citizen's Identity as a Nationalist in "Cyclops"(査読有)がJoycean Japan 33号(2022年6月出版)に掲載され、さらに本年度は新しい視点でジョイス作品における身体表象を捉えて学会発表やシンポジウムを積極的に行ったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は本研究課題最終年度であったが、一年延長の手続きを取った。本年度こそアイルランドへ赴き資料収集を行い、「身体鍛錬」に関する最新の記録の収集を行いたい。研究会などにも積極的に参加し知見を広げる予定である。また、令和5年度以降は女性の身体表象と「身体鍛錬」についてもより深い考察を行いたい。得られた成果は、学会発表および論文誌への投稿により世に発信する。なお、本年度の実績(学会発表およびシンポジウムの内容)は、今後論文にして投稿予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由としては、国際学会、国内学会、研究会に参加予定だったのが、新型コロナウイルス感染拡大のためにいくつかがオンライン開催となり、それら旅費が発生しなかったからである。また、資料収集のためにアイルランドへ赴き実地調査を行う計画(14日間)も昨年度に引き続き実施できなかったためにその旅費が発生しなかったからである。 次年度は、期間延長承認を受けたので、アイルランドでの調査を行い助成金をその旅費に充てたい。また、本研究のテーマに女性の身体鍛錬や女性の身体という新たな視点も取り入れていきたいので、そのための資料や文献収集に助成金を使用するとともに論文執筆をより効率的にするための機材や物品の購入に充てたい。
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Research Products
(3 results)