2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K12978
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 雄樹 神戸大学, 国際文化学研究科, 講師 (70837153)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自伝 / 18世紀 / レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ / フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は引き続き、18世紀フランスの自伝文学において特異な地位を占めるレチフ『パリの夜』の分析を中心に行った。『パリの夜』は文学史的にはフランス革命前後のパリの世相を写実的に描いたルポルタージュ文学として評価されている。本作はレチフの代表作の一つして著名だが、『パリの夜』が持つ自伝文学の側面に注目した研究はこれまでほとんど存在していなかった。上記の事情に鑑み、18世紀フランスにおける自伝の生成過程を考察する本研究は『パリの夜』を再評価することを試みた。特に本作の幸福をめぐる倫理的・道徳的主張を、同時代の著名な思想家ルソーなどと比較することにより、その諸特徴を明らかにし、レチフが自伝文学に拘泥した動機を探ることを目指した。分析の結果、『パリの夜』は政治的動乱がもたらす不安に抗するため、社会的友愛の重要性を強調するが、社会不安が増大するに従い、レチフはそのような社会的幸福の獲得を断念し、文学創造による内的幸福の実現に専念することが判明した。そのような個人的幸福の実現こそがレチフの自伝執筆の動機の根本に存するといえる。 本研究の総括は以下のとおりである。ジョン・ロックに代表されるイギリス経験論は「自己を語る」ことが人間学にとって有益であると主張し、そのようなロジックによってそれまで軽視されてきた自伝文学は哲学的な根拠を得るに至った。しかし、経験論受容以前にもメネトラなどをはじめとした日記文学がフランスには存在し、自己語りの文学の萌芽は18世紀前半にはすでに存在していた。ルソー『告白』において自伝は文学ジャンルとして確立するが、ルソーと同等かそれ以上に重要な役割を果たしたのが自伝的要素に終生拘泥したレチフである。本研究では特にレチフの自伝の動機を探ることを重要視し、社会的動乱の最中にあって自伝執筆によって内的幸福を模索するレチフの姿を明らかにした。
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