2021 Fiscal Year Research-status Report
移動する女性作家たちの系譜ーバレリア・ルイセリと多和田葉子の小説をめぐって
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20K12982
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
洲崎 圭子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 特別研究員 (40869294)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェンダー / 女性作家 / 比較文学 / 移動 / 境界 / 自己翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究成果としては、日本ラテンアメリカ学会全国大会において、口頭発表を行った。発表では、米国に亡命したキューバ人エドムンド・デスノエスによって書かれた小説のスペイン語版原著と自己英訳版を比較し、革命直後の1960年代に低開発であるとみなされていたキューバでは、革命政府の「官製」フェミニズム政策が推し進められ、登場人物は新政府の女性解放策を具現化したものであることが明らかになった。さらに当時キューバは、全世界に先駆けてジェンダー平等を推し進めていたことが確認された。そのほか、急きょ、メキシコ国立自治大学から招聘を受けて、口頭発表を行い、多和田葉子の作品傾向を分析した結果、社会情勢を如実に反映した批判的描写が多く描き込まれていることが確認できた。多和田葉子に関してはこれまでの研究成果を、スペイン語で、コロンビアの雑誌に発表することができたほか、日本語/ポルトガル語併記で、まとまった論考を刊行することができた。 2021年度に竹村和子フェミニズム基金の助成を受けて刊行された『〈産まない女〉に夜明けは来ない―ロサリオ・カステリャノス研究』に関連して、3本の講演会を実施した。そのうち、アメリカ文学とジェンダー論を専門とする討論者がついた会においては、アメリカ大陸共通の社会的・文化的状況が概観されるなかで、同地域における近代国民国家の成り立ちや、その動きと関連した文学のありかたを確認することとなった。他にも、ラテンアメリカ文学におけるジェンダーの様相に関する『ジェンダー事典』(丸善)の項目を、本研究の成果を反映する形で出版できることとなり、校正を待っている段階である他、東海ジェンダー研究所の設立周年事業の一環として発刊される論文集において、分担執筆を行い、こちらは初稿が校了している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れていると考える理由は、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大によって、実施内容が大きく制限されることとなり、不足していた資料収集や、研究者や作家と直接面会して情報を得ることができなかった。また、外国語文献等を海外の出版社や大学出版局に注文をかけたが、郵便事情により年度末までに未着であった文献も少なからずあったため、新たに注文するか訪問時に直接購入するかの見極めをする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
文献情報等を収集するなかで、米国出身の日系人女性が、アルゼンチンに移住してスペイン語で執筆していることや、ラテンアメリカ出身の女性作家らが、ヨーロッパ各国に散らばって在住しつつ執筆活動を行っていることが判明したため、作品をマッピングするとともに、論文にできるよう小説作品を精読する。 これまで行った口頭発表を中心にして論文にまとめ、投稿・出版することを予定している。また、2020年度に行った口頭発表では、単にスペイン語版と自己翻訳された英語版について、形式的な点のみに着目して分析したが、登場人物の造型の相違について新たに考察を深める観点から、2022年度中にも学会発表を行うことを考えている。発表後は速やかに、2回分の成果を学会紀要に投稿発表することを予定している。それと関連して、感染症の世界情勢を見極めつつではあるが、海外出張し、本来予定していた資料収集を行うことを試みたい。 インタビューのために海外出張することができなった代わりに、作家を招聘して行うことになっていたオンライン講演会は、所属先大学の助成金を受けて実施されることが予定されていたが、作家本人の健康上の都合により急きょ中止となった。2022年度には、新たに、メキシコ大使館の協力を得ることが決定済みであることから、実施を予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、実施内容が大きく制限されることとなり、海外出張して行うことになっていた資料収集や、研究者や作家と直接面会して情報を得ることができなかったため。
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