2020 Fiscal Year Research-status Report
Birth of modernity, and Literature and Philosophy based on the aristocratic culture in 18th century
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20K12983
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
鈴木 球子 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 助教 (00800608)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 18世紀フランス文学 / 貴族文化 / 唯物論 / 近代哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は以下の2点を中心に研究に取り組んだ。 1)Le principe de delicatesse -Libertinage et melancolie au XVIIIe siecle(Michel Delon, Albain Michel, 2011)の翻訳 文学・哲学書、回想録、絵画などの豊富な資料を紹介し、それらの分析を通して、革命へと向かう18世紀フランス社会の複雑な様相を立体的に描き出した貴重な書である。翻訳を完成させ、2020年6月に水声社より刊行した(邦題『アンシャン・レジームの放蕩とメランコリー-繊細さの原則』)。 2)アンシャン・レジームから革命後にかけての、王族や貴族に対する世論の変化の調査 18世紀にはキリスト教的禁欲主義が弱まり、人間の欲望や情熱、快楽の追求が肯定されるようになった。このことは、様々な分野において、思考や行動の自由化を生み出した。例えば、文学においては、欲望の追求を主題とするリベルタン文学が著されたし、哲学においては、現世の生に目を向ける唯物論が唱えられた。しかし一方で、欲望や快楽の追求が社会的権力の濫用と同化する場合、それは否定されたことを、革命前後の王族や貴族の私生活を描いた文書を分析することで明らかにした。革命が近づくにつれて、ルソーの『新エロイーズ』や『エミール』に範を求める新たな道徳観が生まれ、さらに政治的意図も相まって、風紀の乱れと貴族とが直接的に結びつけられていくようになり、そのことが世論にも影響を及ぼしたことを明らかにしつつある。研究の結果として、論文「フランス革命期の王族・貴族への眼差しの変化」を『信州大学総合人間科学研究』第15号に投稿し、掲載が予定されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画として、以下の3つを予定していた。 1)18世紀の思潮を汲む文学や哲学の分析と、貴族社会との関わりの考察 2)近代以後に批判の対象となった貴族や王族の生活の実態と虚像の調査 3)王族や貴族への批判と、近代道徳律の誕生との関わりの考察 2020年度はコロナ禍の影響で図書館や博物館での調査が思うようにできず、使用できる資料が限定されてしまった。これが、やや研究が遅れた理由である。そこで、とにかく入手できた資料から順番に読み進めていき、当初の予定を変更して、研究3年目に実施するつもりであった研究(3点の計画のうちの3)を、初年度に進めることにした。革命前から革命後にかけて書かれた国王や王妃、貴族たちに対する幾つかの文書(ボーマルシェの戯曲、政治パンフレット、革命後の批判文書など)を比較して、貴族の私生活に注がれていた視線は、初めから革命的意図を帯びていたわけではなく、むしろ、しばしば文学や娯楽的側面を有していたことを明らかにした。一方、革命後に発せられた旧制度への批判が、ルソーを範とする新たなモラリズムの成立と呼応していることについても、考察を行った。現在は、1)の「18世紀の文学や哲学の分析」を行っている。とりわけ、欲望や快楽の肯定を支える思想・哲学に目を向け、その特徴を明らかにして、近代道徳律との本質的な相違を明らかにしようと試みている。前者はスピノザに端を発する唯物論の影響を受けており、後者は、人間理性を重視する考えや人間と社会との関係に重きを置く思考と関わっているものと、推測している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の5つの方法で進めていく予定である。 1)これまでに、宮廷や修道院におけるモラルの崩壊を描いた文書を読解・分析し、それらがアンシャン・レジーム批判の論拠となっていく過程を考察してきた。しかし、コーパスとした資料の数がまだ少ないため、引き続き政治パンフレットや革命後の弾劾文書などを入手し、読み込んでいく。また、貴族の実際の生活を明らかにし、政治的意図をもって作られた虚像と比較するために、貴族自身が執筆した回想録や、社交界の様相を描いた文書の分析をも行っていく。 2)①欲望や快楽の追求を支えた哲学(唯物論)が18世紀にどのように成立していったのか、②そして近代以降にどのように退けられ、その一方で新たな道徳律が確立されていったのか、の2点を明らかにする。さらに20世紀後半になって、スピノザ主義や唯物論が、なぜ見直されていったのかも考察し、18世紀の思潮全体への見直しへと繋げていく。 3)近代道徳律がブルジョワ文化を基盤とするものであり、貴族文化とは基本的に相容れないものであったことを明らかにする。 4)上記2つの内容について、オンライン研究会を開催し、意見交換をする。 5)研究結果の発表を書物として、刊行する。
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Causes of Carryover |
当初は、18世紀貴族の私生活の実態と、それに対する批判を知るために、フランスの国立図書館やパリ警察庁博物館などに赴き、貴族が実際に起こした様々な事件の記録を調査する予定であった。しかし、2020年度はコロナ禍で海外出張ができなくなったため、調査費を使用しなかった。また、図書館に要求した資料も、届かないことが頻繁にあったため、思うように購入ができなかった。 今年度は、国際郵便がもとに戻りつつあるため、まず資料の取り寄せに費用を使用する予定である。それから、国内に保管されている貴重書の複製の入手のためにも用いたい。現地の諸資料館に行けない代わりに、オンラインで国際研究会を実施し、研究についての意見交換をしたり、シンポジウムを開催する予定であるが、その際の機材費や謝礼、人件費等に用いる計画である。
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