2021 Fiscal Year Research-status Report
Birth of modernity, and Literature and Philosophy based on the aristocratic culture in 18th century
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20K12983
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
鈴木 球子 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 講師 (00800608)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 18世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は以下の2点を中心に、研究に取り組んだ。 1)18世紀フランスの文学・哲学の分析 18世紀のフランスでは、多くの哲学者が唯物論を説いている。唯物論は当時の文学(政治・宗教的地下文書、『女哲学者テレーズ』など)にもしばしば取り込まれ、論じられた。その特徴と変化を分析した。唯物論はスピノザ哲学からの流れを汲んで生まれたものだが、スピノザから多くの要素をそぎ落として、形を変えることで、啓蒙思想に対応していった。トーランドやドルバックらの唯物論に関する言説を読解・解析した結果、スピノザが諸存在の「発生」の瞬間に目を向けているのに対し、18世紀の唯物論は諸存在が解体され、自然に還元されて、再び新たな存在が生まれる、いわば「再生産されるサイクル」に注目していることが明らかになった。 2)1と近代における社会構造の変化との関わりの考察 フーコーの『性の歴史』によれば、近代以降、ブルジョワ社会が発達していく中で、社会構成員の身体に関する言説は増加したとされる。人々の身体は、ある基本的な配慮「人口の増加を保証し、労働力を再生産し、社会的関係をそのままの形で更新すること」のもとに、管理された。このことと、自然の中の「再生産の仕組み」に注目する唯物論が誕生したこととの関連を考察している。啓蒙思想家たちの言説において、スピノザが批判され、一方で唯物論が打ち立てられていく過程を追った。唯物論が啓蒙思想に取り込まれていく過程と、近代における社会構造の変化(貴族からブルジョワを中心とした社会への変化)との呼応を明らかにしようと試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画として、以下の3つを予定していた。 1)18世紀の思潮を汲む文学や哲学の分析と、貴族社会との関わりの考察 2)近代以後に批判の対象となった貴族や王族の生活の実態と虚像の調査 3)王族や貴族への批判と、近代道徳律の誕生との関わりの考察 コロナ禍や航空事情の変化の影響で、予定されていたフランスでの図書館や博物館での調査が思うようにできず、使用できる資料が限定されたことが、やや研究が遅れた理由である。とりわけ、貴族や王族の生活の実態の調査と、王族や貴族への批判文書(政治パンフレットなど)の分析が遅れている。そこで計画を少し変更して、2021年度は1)の前半部分(18世紀の文学と哲学の分析)の研究を主に行った。そして現在は、近代以降の社会構造と権力の在り方の変化(貴族社会からブルジョワを中心とする社会への変化)と、道徳律の変化との関係の考察を行っている。例えば、啓蒙思想の一部を成す唯物論は、人間の身体のとらえ方に特徴があるが、それが近代以降のブルジョワ階級を中心とした社会における権力下での身体管理の在り様と、どのように関連しているのかを研究している。このことが、ひいては貴族という旧時代の階級への、身体的批判(風紀の乱れと貴族階級の在り様とを結びつけた批判など)と関連していることを予想している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果からは、1)近代市民社会の誕生に伴って、権力の在り様が変化し、ブルジョワ家族を基盤とする社会構造の担い手として人間が管理されるようになったこと、2)権力の在り様の変化と、物質や身体に注目する唯物論が啓蒙思想に取り込まれていく過程が呼応しあっていること、の2点が少しずつ明らかになっている。つまり、貴族社会からブルジョワを中心とする社会への変化と、哲学や道徳律の変化との関連を辿っている。
今後はこれに加えて、以下の5点を進めていく予定である。 1)貴族とは、もともとどのような存在であったのかを考察する。2)18世紀における、貴族社会を中心に広まった自由思想が、人間身体をどのようにとらえようとしたものだったかを考える。3)近代における貴族階級への批判が、人間身体の社会的管理からの逸脱(=風紀の乱れ)を根拠の1つとしている様子を明らかにする。4)近代道徳律がブルジョワを中心とした社会構造(人間を社会の構成員としてとらえ、その身体を管理する)を基盤とするものであり、自由思想を掲げる旧時代の在り方や貴族社会とは基本的に相容れないものであったことを明らかにする。5)近代社会を見直す上で、近代以前の貴族社会の在り様や自由主義的思潮の中にも注目すべき点があることを指摘する。 上記の内容について、研究結果をまとめ、オンラインシンポジウムで発表して、意見交換を行う予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍と国際情勢に関連した航空事情の変化により、当初予定していたフランス国立図書館をはじめとする資料館での調査に行けていない。そのため、次年度使用額が生じたものと考えられる。 現在はできる範囲で調査を行っているが、コロナ禍が落ち着き次第、現地での調査を行う予定である。次年度使用額は予定どおり出張旅費として使用する。また、今年度も渡仏できない場合も想定して、様々な機関に働きかけて、資料の入手(複製の購入など)に力を尽くしている。
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