2020 Fiscal Year Research-status Report
現代ドイツ演劇と難民問題――大劇場における難民の「語り」とカタストロフの表象
Project/Area Number |
20K12985
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北岡 志織 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 助教 (60867894)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 現代ドイツ文学・演劇 / 他者表象 / ドキュメンタリー演劇 / 難民 / 公共劇場 / 証言の文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまで伝統的なヨーロッパ演劇制作の担い手であった公共劇場に対し、2012年以降の難民問題がいかなる影響を与えたのかという問いを、カタストロフの当事者である「難民の語り」が用いられる演劇が増加している現象に着目し、難民表象の考察を通じて明らかにすることである。 2020年度はまず、「難民の語り」と同様に「出来事の当事者による語り」が多用されたアウシュヴィッツに関する文学・演劇に着目した。アウシュヴィッツに関しては、その出来事を「表象不可能」とする立場の作家たちが、それでもアウシュヴィッツを表象するために、「当事者の語り」を文学に結びつけ、「新たな」文学を作り上げようとしたことは先行研究でも多く指摘されるところである。アウシュヴィッツ文学におけるこの「当事者の語り」は「証言」と同一視されたが、本研究では、このような「当事者の語り」が多用されるという現象が、現代の難民演劇においても同様に生じており、演劇において難民問題が他のカタストロフと切り離され、「表象不可能」な特殊なものとして位置付けられつつあるということを難民演劇の上演分析と批評の考察から明らかにし、その成果を論文として2021年3月に発表した。 また、上述の問題についてさらに考察するにあたり、難民演劇におけるブラックフェイスの使用(タリア劇場制作『庇護に委ねられた者たち』2014年初演)に着目した。ドイツにおける他者表象とブラックフェイスの歴史的考察、そして上演分析から、このブラックフェイスの実践が公共劇場による自己批判的な意味を持ちうるということを明らかにした。この成果については、2021年3月にオンラインで開催された国際会議で報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初予定していた現地調査を全て断念することになったため、現地で難民演劇の最新の動向を追うことは叶わなかったが、その代わりに日本で取り寄せることが可能な難民演劇関連の映像資料とテクスト資料の分析と考察を行なった。そのため、当初3年目に行う予定であったアウシュヴィッツ文学・演劇の文献研究を前倒しして進めることになった。とはいえ、アウシュヴィッツ文学・演劇と難民演劇における「当事者の語り」の比較の考察は順調に進めることができた。そのため、研究そのものは着実に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は2020年度の研究成果を踏まえ、カタストロフと「当事者が語る」演劇の関わりについての研究をさらに進める予定である。今後はアウシュヴィッツ以降のカタストロフに関する演劇と「当事者の語り」やその他ドキュメンタリー要素について考察する。 社会状況を注視しつつ、可能な限りでドイツからの資料の取り寄せと現地調査を行い、現在中断している最新の難民演劇に関する研究も進めていきたい。 2021年度開始時点でも新型コロナウイルスの感染は拡大しており、発表予定である学会の中止・延期は大いに予想される。そのため、当初の研究計画通りには対面での口頭発表を行うことができない可能性が高い。そのため、オンラインで開催される学会に積極的に応募したり、論文執筆に切り替え、成果を発表していきたい。
|
Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初計画していた現地劇場でのフィールドワークや資料収集、現地での研究者や演劇関係者との打ち合わせや研究報告を実施することができなかった。また、劇場の閉鎖などで取り寄せることができる資料も限られたため、次年度使用額が発生することとなった。 難民問題とそれが劇場に今日まで与えている影響とそれによる変化を調査の対象とする本研究の遂行のためには、現地での長期間のフィールドワークと資料収集は必須であり、昨年度実施できなかった調査も早急に行う必要があるため、2021年度は夏期(8-9月)と冬期(2-3月)の二度、当初の予定よりも長期間の研究滞在を行い、ドイツ・オーストリア・スイスのドイツ語圏の劇場を対象とするフィールドワークを行い、最新の難民演劇の動向について調査する予定である。
|
Research Products
(2 results)