2021 Fiscal Year Research-status Report
ロシア文学における多様なセクシュアリティ――20世紀初頭の大衆小説を中心に
Project/Area Number |
20K12990
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
安野 直 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (10866958)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ニーヴァ / ヴォリフ書店ニュース / LGBTQ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ロシアにおける大衆小説にあらわれる非規範的セクシュアリティがどのように構築され、人々のあいだに広まっていったのかを明らかにすることであった。本年度は、①雑誌メディアの検討、②20世紀初頭以降のロシア文学に描かれるセクシュアリティの検討をおこなった。 ①については、週刊誌『ニーヴァ』と書誌雑誌『ヴォリフ書店ニュース』を研究対象とした。これらふたつの「軽い読書」を志向する雑誌は、従来の『同時代人』に代表される「厚い雑誌」が廃刊や売り上げ不振によって衰退する代わりに登場したものであり、当時の商業主義を象徴するものである。それゆえ、本研究課題を解明するにあたって、もっとも適した雑誌と考えられる。これらの雑誌の検討から判明したのは、雑誌メディアが読者の欲求に応えようと、女性向け大衆小説をフェミニズムを主題として扱った先進的作品として評価するいっぽうで、華美に着飾ることによって「女らしさ」をまとった作家たちの肖像写真を掲載することによって「消費する女」というイメージを創造したことである。 ②については、ソ連崩壊後のポスト・ソヴィエト時代にあたる1990年代前後のロシアで、〈LGBTQ〉――とりわけ同性愛――が文学作品においてどのように描かれていたのかをアクショーノフや、プレシャコフ、ソローキンといった現代作家のテクストを対象に分析した。その結果、1990年代という比較的自由な表現がなされる状況にあって、小説のなかで男性同性愛は社会にとっての「他者」として描かれていたことが明らかとなった。だが他方で、ソローキンのように性愛そのものを相対化させることによって、硬直した〈LGBTQ〉像に揺さぶりをかける作家も出現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来は、ロシアの女性向け大衆小説のイギリス文学からの影響を調査し、ヨーロッパ文学というコンテクストのなかで、非規範的な性の表象がいかなる意味をもっているのかを検討する予定としていた。しかし、研究課題に沿った研究計画を見直し、雑誌メディアの検討をおこなった。その結果、当時のロシアにおける「女らしさ」をめぐる複雑な諸相を明らかにすることができ、これはロシア文学における多様なセクシュアリティの解明にも大いに貢献しうるものである。また、現代文学の検討も、歴史的パースペクティブからロシアの非規範的セクシュアリティを跡付ける上で重要な作業であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究年度最終年度にあたる。これまでの研究成果を統合し、単著としての出版を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、出張が制限されたため。また、来年度ロシア・ウクライナ問題により、ロシア出張は困難と見込まれる。しかしながら、大方の資料はすでに入手しており、また海外学会等の参加もオンラインの参加を検討しており、研究遂行に大きな支障はないと思われる。次年度は、不足分の資料を中心とした物品の購入および、これまでの研究成果をまとめ研究成果公表に向けた作業のために研究費を用いる。
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