2022 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア文学における多様なセクシュアリティ――20世紀初頭の大衆小説を中心に
Project/Area Number |
20K12990
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
安野 直 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (10866958)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア文学 / ジェンダー / セクシュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にあたる2022年度は、本研究課題の主たる対象である20世紀初頭の大衆小説に関する研究に加え、おもにソ連崩壊前後である1980~90年代の文学作品にあらわれる同性愛を中心とした多様なセクシュアリティの形象も同時に検討した。具体的には、アクショーノフ『デュポン・サークルにて』(1996)、プレシャコフ『うってつけの筋書』(1994)、エロフェーエフ『馬鹿と暮らして』(1991)の作品をとりあげ、比較的自由な表現がなされうる状況であってさえも、男性同性愛は小説のなかでは悲劇的に描かれており、社会にとっての「他者」として表象されていたことを詳らかにした。だが、同性愛者を社会にとっての「他者」として悲劇的形象に収斂させてしまうのではなく、同時に性そのものを解体するラディカルな文学的実践も存在したことが明らかになった。とりわけ、ソローキンは、同性愛を特権化せず、さまざまなセクシャリティと並置することによって相対化させている。もはやそこには、「異性愛=正常/同性愛=異常」といった序列は存在せず、同性愛をふくめた性の秩序や規範は、断片化され解体されることになる。 以上のように、現代のロシア文学における多様な性のあらわれを検討することによって、一層、20世紀初頭のロシアにおける性の多様性の諸相が浮き彫りとなった。本研究を通じて得られた研究成果を統合し、単著『ロシア文学とセクシュアリティ―二十世紀初頭の女性向け大衆小説を読む』として発表した。
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