2020 Fiscal Year Research-status Report
Typological and historical study of glottalized consonants of the Ryukyuan languages
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20K13001
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
青井 隼人 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (00807240)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 琉球諸語 / 北琉球沖縄語伊江方言 / 声門化子音 / 音声学的記述 / 音韻論的解釈 / 音韻類型論 / 音変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、通言語的に頻度が低く、その一般特性がまだ充分に明らかにされていない声門化子音(glottalized consonants)を取り上げ、その記述的・類型的・歴史的諸問題を考察する。声門化子音とは、口腔内の閉鎖(もしくは狭め)に加えて、声門での閉鎖(もしくは狭め)を伴う子音の総称である。 5つある琉球諸語のうち北琉球語群(奄美語・沖縄語)に属する言語の多くが声門化子音を有することは、琉球語学では古くからよく知られている。しかしながら言語類型論の分野ではその存在はまだ広く知られてはいない。そこで本研究では北琉球語群の言語を研究対象とし、現地調査と文献調査を組み合わせて組織的に資料を収集する。 本研究の具体的な目的は以下の3つである:(1) 現地調査に基づく声門化子音の言語音声学的記述と音韻論的解釈、(2) 文献調査に基づく声門化子音の北琉球語群内変異の類型化とその説明、(3) 北琉球語群における声門化子音の発展と衰退の妥当なシナリオの再建。 本年度は新型コロナウイルスの蔓延により、計画していた現地調査をおこなうことができなかった。そのため、当初の計画を大幅に変更し、文献調査に重点を置いた。具体的には、①先行研究を精査し、琉球諸語研究における声門化子音をめぐる問題をレビューし、②すでに刊行されている北琉球沖縄語伊江方言の辞書およびテキスト集をデータベース化した。①については、当該年度中に口頭発表をおこない、現在レビュー論文として投稿する準備を進めている。②については、今後、伊江方言の簡易文法を執筆するための資料として用いる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの蔓延により、当該年度は計画していた現地調査を一度もおこなうことができなかった。そのため、当該年度中に収集する予定だった音響音声学的資料を集める機会が失われた。現地調査による資料が重要な手がかりとなる本プロジェクトにとって、現地調査をおこなうことができない現在の状況は、その円滑な進行に致命的な影響を与え続けている。 上記のような状況だったため、当該年度は当初の計画を大幅に変更せざるを得なかった。具体的には、これまでの調査で収集済みの資料や文献資料に基づく調査に重点を置いた。当該年度の主だった成果は以下の通りである:①琉球諸語研究における声門化子音をめぐる問題をレビューした;②すでに刊行されている北琉球沖縄語伊江方言の辞書およびテキスト集のデータベース化を進めた。①について、その結果を琉球諸語研究者が集まるオンライン研究会で発表した。複数の専門家から有益な質問とコメントを受け、活発な議論をおこなうことができた。②について、生塩睦子『伊江島方言辞典』(563ページ)および同『伊江島のはなしことば』(182ページ)をデジタルデータ化した。本デジタルデータは、伊江島方言の音韻論および形態統語論を記述する上で重要な資料となるものである。ただし、このデジタルデータを活用した研究成果を当該年度中に上げることはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスが蔓延する現在の状況が今年度中に劇的に改善されることは期待できない。そこで今年度は引き続き文献調査を主な手法として研究を進めていく。とくに昨年度までに得ることができた知見の論文化を目指す。今年度中に論文化する計画があるトピックは、以下の3点である:(a) 北琉球沖縄語伊江方言の簡易文法、(b) 北琉球沖縄語伊江方言を対象とした声門化共鳴音の音響音声学的記述、(c) 琉球諸語における声門化子音をめぐる問題のレビュー。(a) については、これまでに収集した現地調査資料、そして『伊江島方言辞典』および『伊江島のはなしことば』を資料として執筆する予定であり、充分な量の資料がすでに手元に揃っている。(b) については、初期的な分析が済んでおり、現在論文化を進めている段階である。(c) については、昨年度の発表成果を基に、さらに伊江島方言以外の北琉球語群の言語の声門化子音に関する記述を整理した結果を加えた上で、論文化を進める。今年度が終了する段階で、北琉球語群の声門化子音についての記述的・類型的・歴史的課題が具体的に特定されている状態(言い換えれば、具体的な現地調査計画をすぐに実行に移せる状態)を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により、現地調査を実施することができなかったため、旅費として計上していた予算を年度内に消化し切ることができなかった。また学会発表や研究打ち合わせのために計上していた旅費についても、今年度はすべてオンラインで実施されたため、やはり繰越しをせざるをえなかった。繰越金額として17万円強があるが、これはおよそ1回の調査旅行にかかる経費に相当する。翌年度中に調査可能な状況が整えば、調査旅費として使用する(当初の計画より1回分多く調査を敢行する)ことを考えている。状況が改善されず、翌年度も調査を実施できない状況が続く(あるいは調査が可能であっても、スケジュールなどの都合で複数回の調査実施が困難である)場合は、物品費などとして消化する。とくに文献調査に必要な書籍(文献資料)の購入やそれらのデジタルデータ化に使用する。
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