2020 Fiscal Year Research-status Report
レトリックの構文体系の実証的研究:比喩表現の構造と機能
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20K13016
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小松原 哲太 神戸大学, 国際文化学研究科, 講師 (70779636)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 比喩 / 直喩 / 構文 / 修辞的効果 / レトリック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、構文の観点から、どのような語彙と文法の形式が、どのような比喩の意味構造と対になるかを明らかにすることである。これを達成するために、まず意味のボトムアップな記述を行った。レトリックを専門とする若手研究者および大学院生6名の協力を受け、日本文学から抽出した比喩の用例1,600例と対象として、比喩の意味関係の分析と、具体的な文脈における修辞的効果を記述した。得られた結果は、今後の意味的一般化の基礎となる分析データである。 比喩の文法的特徴を詳細に捉えるためには、特定の形式に注目した事例分析が必要である。British National Corpus からランダム抽出した英語の as if 構文500例をとりあげ分析を行った。文法的指標として、主節動詞と as if 従属節の統語構造を記述した。意味的指標として、as if 節が表す内容に関する虚構性と比喩写像を記述した。これらの文法的指標と意味的指標の相関パターンを解析したところ、(1) 指示的比較構文 X as if Y IS Z、(2) 関係的比較構文 X as if Y、(3) 状況推論構文 X as if Y P[stative]、(4) 因果推論構文 X as if Y P[dynamic]、(5) 照応精緻化構文 It IS as if X、(6) 感覚精緻化構文 X FEEL as if Yの6つの構文、および (A) 比較構文、(B) 推論構文、(C) 精緻化構文の3つの構文タイプが同定できた。この結果から、英語の比喩表現には構文的パターンが確かに存在し、比喩に共起する文法形式の特性が、比喩の意味に大きく寄与していることが分かった。この成果は、京都大学の京都言語学コロキアム、および UK Cognitive Linguistic Conference 2020(オンライン開催)で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比喩の機能的分析は、研究計画の後半に行う予定であったが、比喩の構文を同定するためには、構造と機能の分析を同時に進めていく方が効果的であることが分かったため、日本語の比喩の機能分析を行った。1,000例を超える日本語の比喩の修辞的効果のボトムアップな記述を終えることができたのは、今後の日本語の比喩の構文分析の基礎となる大きな成果である。 研究計画では、1年目に日本語の比喩の収集を行い、文法特徴の解析を行う予定であったが、申請者のこれまでの研究で、日本語の比喩の文法分析はある程度進んでいることから、2年目に行う予定であった、英語の比喩収集と文法分析を優先して行った。結果的に、英語の比喩の構文を複数同定することができた。日本語の分析を行う際には、この英語の研究成果を比較参照することで、基本的な研究のフレームワークが転用できる。 以上から、研究計画の変更はあったものの、研究計画全体としては大きな遅れはなく、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目には、日本語の比喩の文法分析を行う。修辞的効果の記述を終えたデータについて、国立国語研究所による『現代語の助詞・助動詞:用法と実例』を電子データベース化し、文法形式のシソーラスとして用いることで、一貫した枠組みから文法特徴の分析を行う予定である。この分析については、1年目に協力を受けた研究者と大学院生に、再度研究を依頼する予定である。この文法分析を完了することが、日本語の比喩の機能と構造の対応関係の解明につながることが期待される。 また2年目以降は、日英語の特定の文法的構文に注目して、詳細な構文解析を行うことで、研究の理論的枠組みと記述分析の質を改善する。中でも、ある尺度や様態の類似性を表す構文に注目した事例分析を行う予定である。この種の構文は日英語だけでなく世界の多くの言語に見られることが知られている。比喩は典型的には類似性にもとづくため、類似性の構文が、比喩に用いられることはよくある。類似性表現という構文カテゴリーに注目し、日英語の事例分析を行うことで、比喩を伝達する構文によって何が重要な文法特徴であるかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、学会開催がすべてオンライン実施であったことで、旅費の使用が無くなったため。次年度も同様の状況が見込まれるため、予定されていた旅費は、研究協力への謝金と、図書購入の物品費にあてる計画である。
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Research Products
(6 results)