2022 Fiscal Year Research-status Report
レトリックの構文体系の実証的研究:比喩表現の構造と機能
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20K13016
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小松原 哲太 神戸大学, 国際文化学研究科, 講師 (70779636)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 比喩 / 直喩 / 副詞 / 構文 / 類型論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本語と英語を対象として、比喩表現に使用される語彙と文法の実態を調査してきた。2022年度は、特に英語の直喩表現に関する実証的調査を行った。直喩の用例集である “Similes Dictionary” (Visible Ink Press, 2nd edition, 2013) からサンプリングを行い、構文構造に関する分析を行った結果、英語の直喩に最もよく用いられるのは like を用いた様態副詞句構文 [NP VP like NP] であることが分かった。この研究成果は、『認知言語学論考 No. 17』に論文として採録予定である。
日本語の直喩でも、「AようにB」のような連用修飾構文が最も高頻度の構文形であることが分かった。この成果は『国立国語研究所論集』において公表した。直喩の典型例は「AはBのようだ」「A is like B」のようなコピュラ構文であると考えられてきたが、本研究の調査結果は、典型的構文に関する従来研究の想定の再考を促すものである。また、類型論的に隔たりの大きい日英語のあいだに、副詞的な修飾構造の直喩がよく用いられるという共通点があるということは、この比喩の構文選択の背景に機能的な動機づけが存在する可能性を示している。
英語の as if を用いた直喩は典型例とは言えないが、比喩の特殊な機能や効果を分析する上ではこれらの周辺的な構文構造が注目される。この構文には、喩える概念を虚構的に設定する機能があり、虚構性の生成にはパターンがあることを明らかにした。この成果は『表現研究』で既に公刊し、16th International Cognitive Linguistic Conference でも発表することが決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに行った日本語の調査と同程度の規模で、英語の実証的調査を行うことができたことは、日英語の比喩の構文の対照分析を行う基礎となる成果である。さらに、得られた調査結果は、従来の想定を覆す可能性をもっており、比喩の理論的研究としての意義も期待される。
さらに、特定の構文形に焦点を当てた事例分析にも進展があり、比喩の機能的研究に関しても一定の成果が得られたと考えている。
今年度は特に英語の比喩について、大きな研究の進展があった。理論的な示唆を得るための土台となる実証的な調査結果が蓄積されつつあり、研究計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 比喩の構文の典型例を明らかにする。これまでの成果から、典型的構文は副詞的な修飾構文であるという仮説が得られた。ジャンルなどに関して均衡性をもつデータセットを作成し、この仮説を検証することで、従来の比喩研究における想定の妥当性を論じる。
2. 比喩の談話機能の類型化を行う。これまでの調査により、具体的にどのような構文形が日英語の比喩に用いられるかが明らかになったが、これらの構文形にはそれぞれ異なる機能が備わっているはずである。個別の構文形に関する事例分析を蓄積して、比喩がになう具体的な機能や効果を記述することで、構文形式と談話機能の相関を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
年度末に研究協力者への謝金支払いが必要となったため、前倒し請求を行い、想定される最大作業量に対して謝金が支払えるように準備した。しかし、実際の作業量が想定を下回ったため、次年度使用額が生じた。これについては、2023年度から対面実施が再開となる国際学会参加のための旅費に充てる予定である。
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Research Products
(6 results)