2021 Fiscal Year Research-status Report
歴史的音変化の分析を通じた言語接触の痕跡から導く、多文化交流史の解明
Project/Area Number |
20K13026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
通山 絵美 京都大学, 経営管理研究部, 産学共同講座教員 (90867996)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 歴史的音変化 / 言語接触 / ベトナム語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではベトナム南中部~南部地方に分布する諸方言を対象に、その形成過程における歴史的音変化に焦点をあて、背景にある言語接触の歴史との関係を総合的に検討する。同地域は領土拡大や交易など多言語・多文化交流の歴史を持ち、現在も固有の音韻的特徴を有する方言が多く分布することで知られている。しかし、これらを包括的に研究した事例は無く、十分なデータベースが存在しない。また経済成長と教育政策により標準語化が進み、方言の世代間継承が危ぶまれていることからもデータ収集・分析が急がれる。 当初の計画ではベトナム・ハノイ市、ホイアン市の研究機関と連携し、ベトナム南中部~南部地方の農漁村にて、音声データ収集と聞取りによる方言調査を予定していた。その結果を踏まえて方言祖形の再建を行い、現在の形式に至るまでの音変化の考察と音韻規則の分類を進める予定であった。しかしCOVID-19感染拡大による制限措置から2021年度も臨地調査を実施出来なかった。録音技術や機材・収音環境等の知識から、専門家の帯同が必須であるため、代替措置として現地研究機関に録音代行を依頼したが、2021年8月以降の感染爆発とロックダウンにより遂行出来なかった。2021年度は文献調査とともにベトナム南部出身の在日ベトナム語話者を対象にデータ収集を行い、2018年以前に収集した音声データと併せて分析と祖形再建を試みた。しかし、これらのデータは地域や収集語彙の偏りから本研究の代用資料とするには不十分であり、追加データ収集が急がれる。また調査地の現状把握と今後の調査計画について、現地研究機関とのオンライン協議を実施した。とりわけ本研究の対象地域は僻地であり、脆弱な医療体制から2021年度は厳しい移動制限下にあったが、現在は改善している。早期に臨地調査を実施するべく現地研究機関との連携し、円滑な調査活動と研究計画の遅れの挽回に努める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
方言データ収集の遅れ:先行研究では様々な視点からベトナム語諸方言の考察がなされてきたものの、その殆どが音声データを公開しておらず、現時点で利用可能なデータベースは存在しない。よって本研究では独自に音声データ収集が必須であるものの、COVID-19感染拡大に伴う渡航制限措置により、当初予定していたベトナム南中部~南部での方言調査を断念せざるを得ず、当初の研究計画と比べ音声データ及び関連資料の収集が遅れている。本研究における方言調査地域の多くは農漁村の小さな集落であり、医療資源が十分ではない。また現代ベトナムは、経済発展や教育政策に伴い、特に若い世代を中心に急速に標準語化が進んでいるため、本研究のインフォーマントは高齢層を対象としている。彼らの身体的・心理的負担を考慮しても現地感染状況の収束を待つ必要があると判断した。幸い2022年5月時点で、調査対象地域を始めベトナム国内の感染状況は落ち着きを見せており、経済活動の再開とともに国内の移動制限も解除されているため、可能な限り早期に臨地調査を実施予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも述べたように、COVID-19感染拡大に伴う渡航制限措置により、初年度である2020年に続き2021年度も渡航を伴う臨地調査を実施出来なかった。とりわけ2021年8月以降の感染爆発により、ベトナム全土でロックダウンが敷かれ、現地研究機関への調査協力依頼もかなわなかった。今後の円滑な研究活動と研究計画の遅れの挽回に努めるべく、2022年度は次のように研究を進める。臨地調査の実施:2022年5月時点で、ベトナムでは感染状況も落ち着いており、国内移動が可能であることから、7月後半にベトナム中南部~南部にて、2021年中に実施予定であった方言調査を実施する。これに先立ち、調査対象地域の感染状況や医療体制に関する情報を収集するとともに現地研究機関や行政機関、関係者とのオンライン協議を重ね、来る方言調査を迅速円滑に実施できるよう準備を進める。いずれも受け入れ国・地域の法令等を遵守するとともに、社会情勢、医療事情に十分に気を配り、関係者・機関の理解と協力を得られるよう努める。 データ分析:上記方策に則ったデータ収集と分析を通じて、方言同士の系統関係の特定と方言祖形の再建を進める。2022年度後半に歴史的音変化の解析と分類作業に移行できるよう、これらをすみやかに実行する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: COVID-19感染拡大に伴う渡航制限措置および行動制限措置により、当初予定していた海外での方言調査を実施できなかったため。 使用計画: 2020、2021年度に予定していた方言調査を実施するための海外渡航費用、COVID-19感染対策費用、インフォーマントや協力者への謝金、及び録音機材用の記録媒体の購入費用とする。
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