2022 Fiscal Year Research-status Report
歴史的音変化の分析を通じた言語接触の痕跡から導く、多文化交流史の解明
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20K13026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
通山 絵美 京都大学, 経営管理研究部, 特定講師 (90867996)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 歴史的音変化 / 言語接触 / ベトナム語 / 都市化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ベトナム南中部~南部地方に分布する諸方言を対象に、その形成過程における歴史的音変化に焦点をあて、背景にある言語接触の歴史との関係を総合的に検討する。同地域は領土拡大や交易など多言語・多文化交流の歴史を持ち、現在も固有の音韻的特徴を有する方言が多く分布することで知られている。しかし、これらを包括的に研究した事例は無く、十分なデータベースが存在しない。また経済成長と教育政策により標準語化が進み、方言の世代間継承が危ぶまれていることからもデータ収集・分析が急がれる。当初の計画ではベトナム・ハノイ市、ホイアン市の研究機関と連携し、ベトナム南中部南部地方の農漁村にて、音声データ収集による方言調査を行い、その結果を踏まえて方言祖形の再建と現在の形式に至るまでの音変化の分析と音韻規則の分類を進める予定であった。 2022年度後半より渡航が可能になったものの、対象地域である農漁村における感染再拡大および医療設備の脆弱性を考慮し、臨地調査の実施を見送るに至った。代替策として、2022年度8月および2月にハノイ市のベトナム国家大学キャンパスとホーチミン市内にて、周辺地域からの移住者を対象に方言調査を実施し、音声・音韻的特徴を分析した。またその過程で特に他地域からの移住者が多く居住するハノイ市郊外に着目し、方言動態について調査を行うとともに、都市化の過程における生活文化の変容についても併せて考察を行い、2022年12月の学会にてこれを発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
方言データ収集の遅れ:先行研究では様々な視点からベトナム語諸方言の考察がなされてきたものの、その殆どが音声データを公開しておらず、現時点で利用可能なデータベースは存在しない。よって本研究では独自に音声データ収集が必須であるものの、COVID-19感染拡大に伴う渡航制限措置により、当初予定していたベトナム南中部~南部での方言調査を断念せざるを得ず、昨年同様、当初の研究計画と比べ音声データ及び関連資料の収集が遅れている。本研究における方言調査地域の多くは農漁村の小さな集落であり、医療インフラが不十分である。また、若年層の急速な標準語化が進んでいることからもインフォーマントとして高齢層を想定していたため、感染不安を含む彼らの身体的・心理的負担を考慮して本年度も調査の実施を見送るに至った。 調査対象の変更: 上記状況より、本年度はハノイ市を中心に都市部で調査を実施し、対象は地方からの移住者とした。また、言語調査だけでなく、調査対象者の言語環境を取り巻く生活文化にも焦点をあて、特に他地域からの移住者の多い、都市周縁部の生活文化と都市化の過程についても併せて考察を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも述べたように、COVID-19感染拡大に伴う渡航および移動制限により、2022年度前半は渡航を伴う臨地調査を実施出来なかった。同年度後半には、かなり状況が改善したものの、当初の調査対象地域であるベトナム南中部~南部の農漁村での臨地調査は実施できず、都市部での代替調査となった。今後の円滑な研究活動と研究計画の遅れの挽回に努めるべく、2023年度は次のように研究を進める。 臨地調査の実施:2023年前半までにベトナム南中部~南部での調査を実施する。これに先立ち、対象地域の医療体制に関する情報を収集するとともに現地研究機関や行政機関、関係者との協議を重ね、来る方言調査を迅速円滑に実施できるよう準備を進める。いずれも受け入れ国・地域の法令等を遵守するとともに、社会情勢、医療事情に十分に気を配り、関係者・機関の理解と協力を得られるよう努める。 データ分析:上記方策に則ったデータ収集と分析を通じて、方言同士の系統関係の特定と祖形の再建を進める。音変化の解析と分類作業に移行できるよう、これらをすみやかに実行する。 調査地・内容の追加:南中部~南部での調査の他、都市部における移住者の方言動態も調査対象とし、都市周縁などの境界地域における方言接触の実態について考察する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による渡航調査の遅れと調査回数の減少による。次年度にこれを実施し、調査費用に充てることとする。
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