2023 Fiscal Year Research-status Report
歴史的音変化の分析を通じた言語接触の痕跡から導く、多文化交流史の解明
Project/Area Number |
20K13026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
通山 絵美 京都大学, 経営管理研究部, 特定講師 (90867996)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 歴史的音変化 / 言語接触 / ベトナム語 / 都市化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ベトナム南中部~南部地方に分布する諸方言を対象に、その形成過程における歴史的音変化に焦点をあて、背景にある言語接触の歴史との関係を総 合的に検討する。同地域は領土拡大や交易など多言語・多文化交流の歴史を持ち、現在も固有の音韻的特徴を有する方言が多く分布することで知られている。し かし、これらを包括的に研究した事例は無く、十分なデータベースが存在しない。また経済成長と教育政策により標準語化が進み、方言の世代間継承が危ぶまれ ていることからもデータ収集・分析が急がれる。当初の計画ではベトナム・ハノイ市、ホイアン市の研究機関と連携し、ベトナム南中部南部地方の農漁村にて、 音声データ収集による方言調査を行い、その結果を踏まえて方言祖形の再建と現在の形式に至るまでの音変化の分析と音韻規則の分類を進める予定であった。 2023年度も前年度同様、対象地域である農漁村における感染再拡大および医療設備の脆弱性を考慮し、臨地調査の実施を見送るに至った。代替策として、2023年8月と12月にハノイ市・ホーチミン市に渡航し、現地のベトナム国家大学の学生を対象に同国北部・北中部、南部方言の音声データ収集を行うとともに、方言の標準音化についても調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
方言データ収集の遅れ:先行研究では様々な視点からベトナム語諸方言の考察がなされてきたものの、その殆どが音声データを公開しておらず、現時点で利用可能なデータベースは存在しない。よって本研究では独自に音声データ収集が必須であるものの、COVID-19感染拡大に伴う渡航制限措置により、当初予定していたベトナム南中部~南部での方言調査を断念せざるを得ず、昨年同様、当初の研究計画と比べ音声データ及び関連資料の収集が遅れている。本研究における方言調査地域の多くは農漁村の小さな集落であり、医療インフラが不十分である。また、若年層の急速な標準語化が進んでいることからもインフォーマントとして高齢層を想定していたため、感染不安を含む彼らの身体的・心理的負担を考慮して本年度も調査の実施を見送るに至った。 調査対象の変更: 上記状況より、昨年度以降、ハノイ市およびホーチミン市を中心に都市部で調査を実施し、対象は地方からの移住者とした。また、言語調査だけでなく、調査対象者の言語環境を取り巻く生活文化にも焦点をあて、特に他地域からの移住者の多い、都市周縁部の生活文化と都市化の過程についても併せて考察を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも述べたように、COVID-19感染拡大に伴う渡航および移動制限により、2023年度より方針を変え、当初の調査対象地域であるベトナム南中部~南部の農漁村での臨地調査ではなく、都市部での方言実態調査を進めている。今後の円滑な研究活動と研究計画の遅れの挽回に努めるべく、2024年度は次のように研究を進める。 都市周縁などの境界地域における方言接触の実態について考察するため、23年度中に収集したデータの分析を進める:音変化の解析と分類作業に移行できるよう、これらをすみやかに実行する。
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Causes of Carryover |
本務により渡航頻度が限られてしまい、特に海外調査用旅費としての使用額が少ないため次年度に繰り越すことになった。2024年度は2回のベトナム渡航を予定しており、1回を調査、もう一回を研究発表に充てる。また国内旅費としても使用し、国内学会の発表にこれを充てる。
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