2021 Fiscal Year Research-status Report
オーストロネシア化したフィリピン狩猟採集民言語の言語人類学・認知言語学的研究
Project/Area Number |
20K13029
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
木本 幸憲 兵庫県立大学, 環境人間学部, 講師 (40828688)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | アルタ語 / ネグリート / 言語と文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の2点の研究を行った。 まず、中心的課題である、名詞、とくに動植物など具体的な意味を持つ名詞を派生させてできる動詞の調査を行った。コロナウィルス感染症蔓延のため、海外渡航はできなかったため、十分な調査はできなかったが、オンラインでの調査を断続的に行った。その調査を元に元名詞の意味カテゴリーの分布、どのような形態素が付加されて形成されるかという形態論上の問題、それがどのような構文で現れるか、という統語論上の問題を暫定的に整理した。その内容については、“Patterns of denominal verbs from physical nouns: The case of Arta, a Philippine language.” 15-ICAL: 15th International Conference on Austronesian Linguistics(2021年6月29日)にて発表を行った。
また、談話テキストなどの言語資料を蒐集し、それをグロス付きテキストとしてまとめる作業を行った。これは以前に現地でアルタ語、イロカノ語に対して行ったものを書き起こし、整理、翻訳する作業である。その一部は、Asian and African Languages and Linguistics 16: Special Feature: Eleven Family Problems Stories from SCOPICにて出版した。
本研究は、言語と文化との関係について究明する以上、社会言語学的動態の研究が欠かせない。昨年度発表した『社会言語科学』における論文「変化する社会への適応方法としての第21回徳川宗賢賞萌芽賞「危機」言語:フィリピンのアルタ語の活性度と消滅プロセスから」が、第21回徳川宗賢賞萌芽賞を受賞した。(2022年3月2日、社会言語科学会より授与)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も、昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の蔓延にともない、調査地に渡航することは断念した。本研究は、十分な時間を使って話者に聞き取る語彙調査が必要である。そのため、順調に進んでいるとは言いがたい。オンラインで試行的に調査を行い、語彙調査を幾分進めることはできたが、謝金の受け渡しで先方に労力をかけることや、インターネット回線が遅いことなどがあり、十分な時間と回数を確保することが出来なかった。一方で、以前から録り溜めていた録音データや、文字起こしデータなどはあったため、国内で出来る作業を中心に進めることができ、試行的なオンライン調査とこれまでのデータを元に、研究成果を出すことが出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の点を重点的に調査・研究する。 フィールドで調査するはずであった語彙が聞き取れていない。従って、名詞、とくに動植物など具体的な意味を持つ名詞を派生させてできる動詞が、どのような派生接辞をとるか、その結果どのような意味を生み出すことができるか、元の名詞はどのような意味的な特徴を持つか、そして全体としてできる文は、どのような文法的特徴を持つかについて研究を進める。
|
Causes of Carryover |
当初の計画では、初年度から本年度にかけて、フィリピンへフィールド調査に行き、アルタ語ほかの調査を行う段取りであった。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴って、2020年度から海外渡航が事実上不可能となり、そのために計上していた予算を使用することができなくなってしまった。今後は、世界的な感染状況と外務省の渡航情報等を鑑みて、フィールド調査も前向きに検討するつもりである。
|