2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K13033
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
上田 裕 大東文化大学, 外国語学部, 講師 (00733619)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 認識的変化 / 比較表現 / 単純状態 / 形容詞 / 属性 / 評価 / なっている / 文末助詞“了2” |
Outline of Annual Research Achievements |
「その部屋は丸くなっている」という文は、「なる」という変化動詞を含むにもかかわらず、部屋が円形であるという単純状態を叙述できる。本研究は、このような単純状態を表す「なっている」と中国語の文末助詞“了2”の成立条件について、比較の状況を中心に考察した。先行研究では、単純状態を叙述する「なっている」の成立条件について、予期や基準からの逸脱、とらえられた状態に対する解釈といった観点から説明されているが、比較文についてはほとんど考察されていない。単純状態を表す“了2”の比較文における成立条件についても、これまで十分に検討されてこなかった。2020年度は、2つの対象を眼前で比較する状況で用いられる「なっている」と“了2”の成立条件を対照して考察し、両者の成立条件の共通点と相違点を以下のように示した(主な点のみ抜粋)。 [共通点]①同様であると思っていた2つの対象の属性がわずかに異なると認識した状況で用いることができる。②視覚によってとらえられる属性を比較する状況で広く成立する。③評価的な形容詞とはなじまない。 [相違点]①形状と種類が異なる2つの対象の大きさを比較する状況で、「なっている」は成立しないが、“了2”は成立する。②背丈のように内在的な力によって変化する対象を比較して叙述する状況で、「なっている」は成立しないが、“了2”は成立する。③比較対象が眼前に存在しない状況で「なっている」は基本的に成立しないが、比較対象の大きさを具体的に想起しやすい場合や2つの対象の属性が同様であるという背景知識に基づく前提がある場合には成立する。“了2”は、そうした前提がなくとも成立する。④対象が必要とされる大きさ、高さという臨時に設定された基準に合致しないことを述べる状況で「なっている」は成立しないが、“了2”は成立する。 以上より、“了2”は「なっている」に比べて成立しやすいことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり、「なっている」と文末助詞“了”が比較の状況で認識的変化表現として成立するための条件を対照して明らかにすることができた。新型コロナウイルスの流行により、インフォーマントとの対面による例文の容認度調査を実施できないという問題が生じたが、音声通話やメールでのやり取りにより、問題なく調査を終えることができた。最終的に、以下のような研究成果を発表することができたため、研究がおおむね順調に進展していると判断した。 [研究発表] 上田裕2020.「認識的変化表現の日中対照―比較の状況を中心に―」,大東文化大学語学教育研究所2020年度第2回研究発表会,大東文化大学,11月30日。(査読無) [研究論文] 上田裕2020.「認識的変化表現「なっている」の成立条件―比較の状況を中心に―」,『日本語學研究』第65輯,pp.97-114。韓國日本語學會。(査読有、KCI搭載誌) 上田裕2021.「認識的変化表現の日中対照―「なっている」と文末助詞“了”を用いた比較表現を中心に―」,『日本語學研究』第67輯,pp.87-105。韓國日本語學會。(査読有、KCI搭載誌)
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定どおり、「-く/になっている」に対応する韓国語表現が比較の状況で認識的変化表現として成立するための条件について、事態に対するとらえ方という観点から考察する。「-く/になっている」に対応する韓国語表現には、①「-key toy-e iss-ta」と②「-a/ejyeo iss-ta」の2つがある。予備的調査によれば、①は認識的変化表現として成立し得るが、②は成立し得ないようである。今後は、関連文献を収集しつつ、韓国語母語話者2名に例文の許容度判断を依頼し、①の成立条件を明らかにするとともに、②が成立する状況の有無を確かめるべく調査をおこなう。最後に、①(と②)の成立条件を「-く/になっている」および文末助詞“了”の成立条件と対照して考察し、各表現形式の特徴を明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じたのは、①新型コロナウイルスの流行により、当初参加予定であった学会や研究会が中止あるいはオンラインでの開催となり、旅費支出がなくなったこと、②当初謝金の支払いを予定していたインフォーマントに協力を依頼するのが困難な状況になり、謝金の支払い額が予定よりも少なくなったこと等による。2021年度は、インフォーマントに支給する謝金、文献の取り寄せおよび複写費、取り寄せ資料等の郵送費、学会および研究会の年会費等に支出する予定である。また、学会や研究会が対面方式で開催されるようになった場合、旅費および参加費として支出したいと考えている。
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