2020 Fiscal Year Research-status Report
What can psych adverbs tell us about language universals and language variation?
Project/Area Number |
20K13071
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
三浦 香織 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (90633628)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 心理副詞の認可 / 統語構造 / 意味機能 / 動作主・経験者 / 否定のスコープ / 主観性・客観性 / 比較研究 / 日本語、韓国語、英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
通言語的に、動作の主体がその最中や終了後に対象物に対して抱く心理や認識を描写する表現が存在する。日本語では「お茶を【美味しく】頂いた」のように、形容詞の連用形で現れ、文中では副詞的な役割を担う。本研究は、このような心理副詞の内部分析や他の副詞、または心理副詞同士の位置関係の観察・考察を通して、副詞の認可を解明することで、意味と統語のインターフェイスの問題に取り組む。令和2年度は、以下、3点の研究実績を報告する。 (1)心理副詞と認識動詞: 心理副詞が認識動詞と共起した場合、SC構文を形成する(例:【美味しく】思う・感じる)。SC構文の心理副詞はVの補語位置にしか現れない。一方、動作主の認識を表す心理副詞文は、より広域に分布できることがわかった。この点は一部の先行研究でも報告されているが(Koizumi 2002など)、本研究ではテスト項目を広げて検証を行なった。また、同じ差異は韓国語の心理副詞構文でも検出される傾向にあった。 (2)心理副詞と動作主、経験者:心理副詞が動作主(=経験者)の心理を表すのか、または動作主以外の経験者の心理を表すのかによって、少なくとも二種類に別れることがわかった。心理副詞が「飲食や知覚、知識や情報の出入れに関する動詞」(永田 2015)と共起する場合が前者の場合である。 (3)心理副詞と否定辞、主観性:心理副詞が動作主の心理を表す場合、否定の文脈で容認されにくい(例:#【美味しく】食べなかった)が、経験者の場合はこの限りでない(例:話を学生に【おもしろく】伝えなかった)。また、語彙的に否定的な意味合いを持つ心理副詞は、特に文脈を用意しない限り、当該構文で容認されにくい(例:#【まずく】食べる)。また、心理副詞は容態の副詞の左に現れるほど、より主観的な解釈が得られやすい(例:【美味しく】素早く食べる(主観的)vs.素早く【美味しく】食べる(客観的)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、日本語の心理副詞文の統語的・意味的な特徴について、SC構文の心理副詞と比較し、統語構造を検証することにあった。検証の中で、一部の心理副詞は否定のスコープ内に生じにくいという新たな事実が検出されたため、今年度の目的は概ね達成できたと考えている。ただし、新型コロナウイルス感染拡大のため、海外の学会が軒並みオンライン開催となり、研究上の交流が直接できなかったため、同年度の後半に予定していた韓国語のデータ収集の下調べができなかった。また、同じ理由で日本国内で母語話者の直観判断テストも実施できなかった。令和3年度、韓国に渡航できない場合は、令和2年度に韓国語のデータを提供してもらった韓国語母語話者に再度、メール連絡をし、一部の実験に協力してもらうことや、より大規模なデータが必要な場合は、オンラインでデータ収集をできるような環境を整えることを考えている。また、必要があれば、感染状況に配慮し、日本人母語話者に対するテストも対面で実施したり、オンラインで実施することを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度は当初の予定通り、R2の実績を基調に韓国語と英語における心理副詞の統語性質や意味機能について調査を行う予定である。韓国語のデータ収集に関して、渡航し対面でデータ収集が困難である場合は、R2年度に韓国語のデータを提供してもらったサイモンフレーザー大学のChung-Hye Han教授に連絡をとり、メールでのデータ提供を依頼する予定である。また、より大規模なデータ収集が必要な場合は、オンラインでデータ収集できる環境を整える予定である。そして日本語の心理副詞構文と同じような認可の仕組みでもって、分析が可能であるかを検証する。 またR2の研究により新たに浮上した心理副詞のスコープの特徴について(否定のスコープに現れにくい、否定的な意味の副詞は構文中にあらわれない)、あらたに事実の整理と文献の調査が必要となる。現時点では一部の心理副詞はその統語環境によって極性表現となりえることを仮説とし、これらの事実を捉えられるような意味論の仮説を提案できるように研究を進めたいと思う。Ernst (2009)が参考になる仮説を提案しているので、その仮説が日本語の事例でもサポートされるのかをまずは検証する予定である。
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Causes of Carryover |
R2年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のため、学会や研究打ち合わせはすべてオンラインで開催された。このため、当初計上していた研究発表のための旅費を使用することがなかった。また、データ収集に関しても、同様の理由から、言語実験を対面で実施することができなかった。このため、謝礼金や実験に付随するアルバイト費用なども使用しなかった。 R3年度も学会はオンラインで開催される予定であり、感染者数の拡大によっては対面でのデータ収集は困難であることから、データ収集の必要性が生じた場合は、感染状況に配慮して人数制限をした対面開催か、オンラインで実施する計画である。
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