2023 Fiscal Year Annual Research Report
Corpus-based investigation of L1 phonetic drift and L2 proficiency
Project/Area Number |
20K13144
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
矢澤 翔 筑波大学, 人文社会系, 助教 (50844023)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 母語喪失 / 外国語訛り / 理解可能度 / 習熟度 / 海外経験 / 音声コーパス / 英語 / 日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度となる本年度は、前年度より行なっていたコーパス音声の印象評定実験の協力者を26名まで増やすとともに、話者の言語背景を考慮した詳細な分析を行った。その結果、英語の習熟度が高い話者ほど母語である日本語が「訛っている」と判断されるという傾向が変わらず見られたが、これは話者に中長期間の海外滞在経験がある場合に限られ、日本国内で英語を習得した場合は該当しないことが明らかになった。また、海外滞在経験の有無に関わらず、英語習熟度の高い話者ほど母語である日本語が「理解しやすい」と判断されるという新たな発見も得られた。これらの結果は、第二言語を高度なレベルまで習得することは必ずしも母語の訛りには直結せず、また理解可能度の観点からは母語に好影響をも与え得ることを示唆している。母語が訛りを帯びる原因としては、習得した第二言語が既に確立した母語に積極的に干渉しているというよりは、海外滞在中に使用頻度が著しく減少した母語の部分的な喪失に依るものと考える方が妥当であるように思われる。ただし、母語は仮に一部が喪失したとしても、母語環境に戻ることで完全でないにしても回復することが報告されており、本研究で扱ったコーパス内の話者は全員海外から日本に帰国済みの話者であったこともあって、訛り度の程度はさほど大きなものではなかった点には触れておきたい。 研究全体の示唆としては、日本国内において重点的な英語教育を行なったからといって母語である日本語の発音能力が悪影響を受けることはおよそ考えにくく、したがって早期英語教育や英語イマージョン教育の導入に関する弊害は限定的と考えられる。また、帰国子女の生徒・学生の日本語発音能力については、海外滞在時における母語使用の保持と帰国後の回復の双方が重要になると考えられる。
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