2021 Fiscal Year Research-status Report
万歳唱和の新研究――東アジア礼制比較史研究の総合化に向けて
Project/Area Number |
20K13156
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三田 辰彦 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (00645814)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 万歳唱和 / 礼制 / 漢-唐 / 東アジア / 比較史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、中国古代の諸儀礼における万歳唱和という所作が、いかに一つの型をなすようになり、当時の人々の心性といかなる関連性をもつのかを解明することである。この課題遂行を通して、東アジア礼制比較史研究の総合化の促進を目指す。 当該年度は、前年度に収集した万歳唱和に関する記録の分析を進めた。分析結果は以下の三点である。(1)万歳唱和に関する前近代中国の考証文献の分析。北宋・南宋の史料では、万歳唱和の淵源について長寿祈願の歌に見える「万寿」、歓呼の叫びに見える「万歳」の両説が提示されている。唐代までの史料の用例を調査すると、大声で呼ぶ動作と併用される語は「万歳」であり、類似の意味をもつ「万寿」「万載」「万年」は唱和の文脈での用例はほぼ皆無であったことが判明した。(2)『大唐開元礼』(唐代、8世紀)に見える万歳唱和の分析。万歳唱和の段取りは、元旦・冬至の元会儀礼を基礎として他の典礼儀式(納后の儀、皇太子冊立の儀、皇帝元服、皇帝の誕生祝い、皇帝の射的など)に援用されていた。また概ね皇帝(皇后・皇太子)のおことばを受けた後に行われ、その後に飲食に移行していることから、祝賀の儀を締める合図として機能していたと考えられる。(3)万歳の「皇帝専称」に関する分析。前年度の課題遂行を通して、万歳唱和の対象が皇帝に限定されない事例に宋人が違和感を抱いていたことを看取した。そこで万歳唱和の対象という観点から収集史料を分析した。唐代までの事例を調査すると、歓喜の発露として行われる万歳は明確な対象がいるとは限らず、万歳は必ずしも特定人物の専称ではないことが判明した。また『大唐開元礼』と唐以前の儀礼の事例とを対比すると、『大唐開元礼』では皇帝のほか皇后・皇太子が各々の「臣下」から万歳唱和を受けており、祝賀の儀における万歳も皇帝専称と認識されているわけではないと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に当初の予定以上に大量の史料群を収集したため、当該年度は分類整理に時間を費やした。その中でも推進方策に沿って考証文献の分析および『大唐開元礼』と唐以前の儀礼の事例との対比を進めることができたのは一定の成果であったと言える。また前年度に引き続き出張制限のある中でも、本研究課題と関連する東アジア后位比較史研究会にオンラインで参加し、日本史・朝鮮史の研究者との交流を継続することができた。2021年10月には当研究会で金代の儀礼書『大金集礼』の訳注を担当し、結果的に北宋・南宋および金の儀礼における万歳唱和の用例を一部分析する契機を得たのは、本研究課題の将来的な発展に寄与しうる望外の余得であった。 しかしながら当該年度も具体的な成果としての公表が間に合わなかった点を勘案し、最終的に「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度・第二年度の基礎的作業を踏まえ、唐代までの万歳唱和の用例一般に関する分析とともに、これまでの研究をより精緻にする作業を行う。また今年度は最終年度のため、研究成果の公表を推進する。『大唐開元礼』の分析については5月下旬に国内での学会報告が決定しているが、その他の分析結果も学会・研究会での報告または論文等の形で公表する予定である。とりわけ日本古代中世史研究者に向けての公表を通して、東アジア礼制比較史研究の総合化に向けて議論を深めていきたい。なお海外の研究者との研究交流については、昨年度進めていた中国・台湾の同世代研究者とのSNSでの交流は残念ながら実現しなかったが、中国側の主催による今冬のオンライン研究交流会開催を実現すべく協議を続けている。
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