2021 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム時代西アジアにおけるイラン概念の復活と変容
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20K13193
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大塚 修 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00733007)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イラン / 歴史書 / 地理書 / カーシャーニー / 『オルジェイトゥ史』 / ハムド・アッラー・ムスタウフィー / イルハーン朝 / 写本研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、2020年度と同様に新型コロナウィルス感染拡大の影響により、海外の図書館と研究機関における史料調査が困難な状態であり大きな計画の変更を余儀なくされた。そのために、新史料の発見や入手という成果をあげることはかなわなかったが、その時間を、既に入手済の写本や刊本の分析、論文の執筆に費やした。
2021年度に特に力を入れた作業は、イラン概念に大きな変化が確認できるイルハーン朝時代にペルシア語で編纂されたカーシャーニー著『オルジェイトゥ史』の校訂と翻訳である。カーシャーニーは、ラシード・アッディーンの影に隠れて注目されてこなかった歴史家であるが、近年、にわかに注目を集めている。彼の著作の一つの『オルジェイトゥ史』は、ペルシア語の美文で書かれており、読解が困難なだけでなく、テュルク語やモンゴル語の語彙や東アジアの歴史・文化に関する知識も必要で、正確な校訂や訳注は刊行されていなかった。その作業を共同研究という形で進めてきたが、2022年度には日本語訳注を刊行できる見込みとなった。ペルシア語校訂の出版も可能な限り早くできるように準備を進めた。
また、2020年度にイラン・イスラーム共和国ガズヴィーン市で開催された「ハムドッラー・モストウフィー・ガズヴィーニーの科学・文化的遺産学会」(オンライン)で行った研究報告をペルシア語の論文として報告書に寄稿した。この知識人はイラン概念研究で鍵となる人物であり、この人物に関する最新の研究成果に対するイランの国内の反応を得ることは大きな意味を持つ。その他に、最新のイスラーム史概説である『ワイリー・ブラックウェル・イスラーム史』に対する書評を共著で執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、海外の図書館・研究機関における史料調査が不可能となり、残念ながら史資料の収集には大きな遅れが生じている。一方で、近刊の写本目録や最新の研究書を積極的に購入することで史資料調査の事前準備を行い、今後感染が落ち着き次第、海外の図書館・研究機関で史資料調査を開始できる態勢を整えることができた。これに加えて、史資料調査に使用する予定であった時間をすべて史資料の分析につぎこんでいるため、これについては予想以上に順調に進めることができており、またその成果を公表することができているために、新型コロナウィルス感染拡大の影響による研究の遅れはそこまで大きなものではないと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き史資料の分析を進めていく。また、新型コロナウィルス感染が落ち着き次第、いつでも速やかに海外の図書館・研究機関における史料調査を開始できる よう、準備を整えていく。可能であれば、夏にイギリスの英国図書館、春にイランのテヘラン大学付属中央図書館において、歴史書や地理書の写本調査を行う予定である。出版の目途がついた『オルジェイトゥ史』訳註を完成させ、また校訂の作成を続ける。また、史料におけるイラン概念の変遷をまとめた論文の執筆を準備している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、海外の図書館・研究機関における史料調査が不可能となったため、次年度使用額が生じた。海外の図書館・研究機関での調査が可能になり次第、使用する予定である。もし2022年度も調査が難しい状況が続く場合には、史資料の購入費などに充てる予定である。
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