2021 Fiscal Year Research-status Report
U.S. Economic Aid in the era of Chinese National Government
Project/Area Number |
20K13200
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
秋田 朝美 京都大学, 経済学研究科, ジュニア・リサーチャー (40793691)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 借款 / 国民政府 / アメリカ / 経済援助 / 桐油 / 棉花 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日中戦争勃発前後のアメリカが国民政府に供与した対物借款に着目し、東アジア国際秩序の変質過程を政治・経済・外交面から再検討する。日中戦争勃発で区切らず連続的にとらえることで、ワシントン体制下の東アジアを取り巻く借款問題の所在と借款の変質過程を明確にできるからである。 具体的には1935年4月、アメリカ復興金融公社総裁の棉麦借款の終了宣言前後から、日中戦争勃発後の1939年2月、2500万ドル借款の成立までを連続的に検討した。重要なのは、棉麦借款の総額5000万ドル分のうち減額分3000万ドルが未使用である点である。1935年4月以降、国民政府はこの減額分3000万ドルの復活をめざして対米交渉を試みており、同年11月の幣制改革にも一定の影響を及ぼした。さらに、国民政府は、借款援助を求めて対米交渉を繰り返し、人道的救済を含む「経済援助」を求めていた。なぜ対米交渉が続けられていたにもかかわらず、従来の研究では、借款の連続性・交渉の継続性の視点から論じられてこなかったのか。その背後にあった諸要因については、中国側とアメリカ側の諸事情だけでなく、日本やドイツの動きを含めた東アジアの国際秩序の変容に着目して総合的に再検討する。 本研究では、マルチアーカイヴの手法を用いて史料分析を進める。既存の研究で曖昧な空白部分を複数の史料を組み合わせて分析することは、中・米・日・独間の経済利害関係を紐解く一助となるだろう。特に、上海市档案館所蔵の史料、アメリカ国立公文書館所蔵の国務省・財務省の史料、および日記などを用いて、アジアと欧米を結ぶ国際分業体制に借款の締結過程がどのような影響を及ぼしたのかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は、アメリカ側の関連史料から対物借款についてさらに調査を進めるため、アメリカ国立公文書館(National Archives and Records Administration : NARAⅡ)での史料調査を予定していたが、本科研の初年度から続くコロナ禍のため史料調査は実施できていない。そのため、以前に入手していたアメリカ側の史料を再精査するとともに、Foreign Relations of the United States Diplomatic Papers:FRUS、国会図書館や京都大学の各図書館を通じて入手した二次文献や資料、アジア歴史資料センター(JACAR)の利用、関連書籍の購入などを通じて情報を収集し、整合性を確認して調査研究を続けている。 令和3年度前半の2021年4月17日に、「盧溝橋事件前後の借款問題―桐油借款を中心に―」と題して、中国現代史研究会の東海地区4月例会(Zoomにより開催)で報告した。参加者からの意見を得て本研究課題の問題点も明らかになった。アメリカ国立公文書館の戦時期のアメリカ国務省史料の分析を進め、本研究の課題をさらに明確化することにつながった。その成果は、令和3年度後半の2022年2月19日に、「国民政府期の借款問題と米国の思惑」と題して、日本植民地研究会春季研究会(Zoomにより開催)で報告した。その際に日本経済史の専門家から棉麦借款と桐油借款の接合性とその実態を俯瞰できる的確なコメントを頂いた。その後、2500万ドルの桐油借款締結に至る過程について長い歴史的文脈の下で二つの対物借款を位置づけなおし、本研究課題の一部を学術雑誌に投稿するよう加筆修正作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度から3年度の研究計画では、中国側の関連史料を入手するため、上海市档案館、台北の国史館、中央研究院近代史研究所などでの調査、およびアメリカの国立公文書館で再調査する予定であったが、コロナ禍のため延期を余儀なくされた。本年度は遅れている海外各地での史料調査を進める。 現時点では、中国本土における調査は難しいと思われるため、台湾の国史館や中央研究院でアメリカの対中借款供与の実態を双方向的に調査する。また、アメリカ国立公文書館やイギリス国立公文書館でも再調査を行う。同時に、ドイツやソ連の動向に射程を広げて関連の英語や中国語の史料の入手も進める。 本年度の上半期では、2022年2月19日に日本植民地研究会春季研究会で得た貴重なコメントをもとに加筆修正の作業をすすめ、論文を学術雑誌『アジア経済』に投稿する。さらに、中米交渉以外に、日本の中国占領地での経済活動や諜報活動の実態が十分検討されていないため、日本側の動向に着目し、借款締結に及ぼした影響を探る。中国国内外の多様な視点を組み込み、別の論文として学術雑誌に投稿する。 別の検討課題としては、借款締結後の桐油の対米輸出やトラックの対中輸出の実態調査も進める。アメリカだけでなくイギリスやフランスの対中協力体制がどのように構築されたのか、中国側要人がヨーロッパ諸国で積極的に対中支援交渉を行っていたことから、イギリス公文書館でも史料調査を行う。重慶国民政府は、桐油の輸送ルートが変更されることを想定してどのような準備を行っていたのか、日本の攻撃を回避するための重慶国民政府の解決策についてさらなる調査研究を行い、さまざまな領域の研究者との交流を通じて新たな研究課題を追求していきたい。
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Causes of Carryover |
令和2年度から3年度にかけて、海外での史料調査を行う予定であったが、コロナ禍のため延期を余儀なくされてきた。また、研究会の報告においてもZoomにて開催されたため国内旅費も生じていない。そのため、残額分は主としてこれまでに計画していた国内と海外での史料調査の旅費として利用する予定である。
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