2020 Fiscal Year Research-status Report
〈発病占〉についての社会史的研究:近世以降を中心に
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20K13207
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Research Institution | Kanazawa Gakuin University |
Principal Investigator |
佐々木 聡 金沢学院大学, 文学部, 講師 (60704963)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 発病占 / 通俗信仰 / 占術文化 / 民間医療 / 術数 / 甲馬子(紙) / 道教 / 辟邪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで収集を進めてきた発病占書および関連資料に加えて、①ハーバード大学燕京図書館所蔵道光乙巳年通書(丹桂堂刊)等のカラー画像および②「評遇事」と題する術数書の写本(原本)を収集した。 ①は『広州大典』に収録されるが、印刷が不鮮明であり十分な内容の検討ができていなかった。本書には、三十日病占から六十日病占へと至る過渡期の発病占が載録されており、カラー画像により詳細な検証が可能となった。また②は発病占を中心とした術数書であり、おそらく20世紀の後半の写本と考えられる。これまで発病占書は民国期までの伝本が確認されていたが、現代でも使用された事例が見つかったことで、今後のフィールドワークの必要性が浮かび上がってきた。載録されている三十日病占は、『玉匣記』の三十日病占に由来不明の三十日病占を並記する点など固有の内容も見られ、また左行で書かれている点など独自性も窺える。以上の新資料は、古代に成立した発病占の近代以降における継承・展開を考える上で非常に重要な資料と言える。 また今年度は、発病占に見える鬼神と通俗信仰との関係性を考えるために、雲南省で使用される神像呪符「甲馬子(紙)」にも着目した。最も網羅的な先行研究である川野明正『神像呪符「甲馬子」集成』(東方出版2005)を下敷きに、目下、発病占に見える鬼神との比較を試みているが、特に今年度は個人蔵の甲馬子版木に見える「五道猖王」に着目した。この鬼神は中国で広く信仰される五道神の一ヴァリエーションと考えられる。五道神は発病占にも頻出であり、占辞の鬼神表象を考える上でも画像資料である甲馬子との比較は有意義であった。もっとも甲馬子には地域・民族性が色濃く反映しており、慎重な態度で比較を行う必要がある。以上の検討で得た知見を踏まえ、特別展「東アジア恠異学会20周年記念展示 吉兆と魔除け」に当該資料を出品するとともに解説をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、新型コロナウィルスの流行により海外調査を実施することがかなわず、また研究協力者も日本に帰国していたため、予定していた中国での資料収集を進めることができなかった。また国内で予定していた発病占資料調査も同様の理由から実施できていない。そのため、本研究の要である資料収集が進まず、研究計画全体がやや遅れることとなった。 一方で、これまで収集した発病占資料および関連資料については、校訂資料の作成にむけて整理作業が進んでいる。また新たに得た資料についても整理・検討を進めている。関連資料も含めた成果の一部は、研究会や所属学会の特別展および展示目録の中で公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者が21年度中に中国に渡航する予定のため、連携して資料収集を進める予定である。海外調査の見通しは、現時点ではまだ立っていないものの、新型コロナウィルスの感染状況やワクチン接種などの状況を見定めながら、計画延長も視野に入れながら研究を進めてゆく。 また発病占の占辞に見える鬼神と関連資料の比較、さらに同時期の辟邪文化資料とも合わせて検討する必要が出てきている。現時点ではまだフィールドワークなどは難しいが、コロナ禍において公開が促進されている研究機関・博物館等のデータベースも有効活用しながら、将来的な実地調査に向けて準備を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウィルスの流行により、国内外の調査が全く実施できず、予定していた調査を全て次年度以降に回したため、次年度使用額が生じることとなった。
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