2020 Fiscal Year Research-status Report
Multidisciplinary study on the formation of Japanese intellectuals' perceptions of China: Focus on the activities of "Chugoku Bungaku Kenkyukai" after the second World War
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20K13208
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
朱 琳 中部大学, 中部高等学術研究所, 研究嘱託・研究員 (50815925)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 竹内好 / 武田泰淳 / 中国文学研究会 / 近代日本の中国文学受容史 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年はCOVID-19パンデミックの影響を受け、予定どおりに資料調査を行うことができなかったが、オンライン公開資料、データベースなどを利用して、二つの実績があった。 【1】 資料の収集と整理:1946年以後に復刊された『中国文学』の内容を整理し、そのほか、オンライン公開資料とデータベースを通して6人の中国文学研究会同人(竹内好、武田泰淳、岡崎俊夫、増田渉、實藤恵秀、松枝茂夫)が戦後の国内で発表された資料を収集し、各同人の著作目録を作成した。個人の文集に収録されなかった作品を多く発見した。 【2】 竹内好と武田泰淳の比較研究:オリエンタリズムの視点から、竹内好の『魯迅』と武田泰淳の『司馬遷』の再検討を行った。具体的に言えば、竹内好の『魯迅』について、彼の戦後に発表された近代批判に関する文章と照らしながら、竹内好の魯迅認識が如何に彼を近代化批判に導いたのかを明白にした。そのうえ、従来「竹内魯迅」と評価された魯迅論の主観性を批判的に検討しながら、竹内好の中国認識の限界を考察した。また、武田泰淳の『司馬遷』について、彼の戦後に発表した知識人論と照らしながら、冷戦時代の武田泰淳は「知性」を再定義した際に、中国の知識人から多くの影響を受けたことを明らかにした。特に、武田泰淳の西欧知識人と異なる知識人像を構築する試みが、司馬遷に対する認識が拠り所となっていることも明らかとなった。従来の研究では、両者を中国の良き理解者として評価するものが多くみられるものの、実際に竹内好の描いた魯迅像と武田泰淳の描いた司馬遷像を比較した結果、彼らの主張した「中国理解」の中に、彼ら自身の心理的な要素が投影されていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年ではCOVID-19の影響によって、予定どおりに東京での資料調査ができなかったが、オンライン公開資料とデータベースが多く利用できるようになり、同人たちの著作目録を作るには大きな支障がなかった。ただし、所在や保存状態などの要確認の項目もあり、著作目録の修正作業が予想される。来年度にCOVID-19の状況を見ながら、できる範囲で日本国内での調査を行うことを計画している。 竹内好と武田泰淳の課題について、すでに多数の資料が公開されているため、2021年度での作業を繰り上げて、その成果を論文としてまとめた。本来、当該年に共著の一部として台湾で出版される予定であったが、COVID-19の影響によって出版がやや遅れ、2021年5月に刊行される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、第一、COVID-19の状況を見ながら、日本近代文学館、東京都立図書館、関西大学、および国立国会図書館での資料調査を行ない、著作目録の照合作業を行ないたい。第二、中国での資料調査は現在目処がつかず、その対策として、再来年度の研究計画の一部を繰り上げる。課題としては、松枝茂夫の翻訳に関する研究である。松枝茂夫は戦前から戦後までに絶えずに中国白話小説と現代小説を翻訳した。その背後に、彼と周作人との関係が無視できない。最近、松枝茂夫と周作人との往復書簡が公開され、これの新資料を利用しながら、松枝茂夫の翻訳作品から反映された中国文学に対する認識と日中文化交流の実像を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
理由: COVID-19パンデミックの影響で、計画していた資料調査と学会発表がすべて中止となり、旅費の支出はゼロとなった。 次年度の使用計画: COVID-19の状況を見て、できる範囲で資料調査を行う。資料調査の再開が難しい場合、古書の購入などで資料を収集する予定である。
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