2021 Fiscal Year Research-status Report
Multidisciplinary study on the formation of Japanese intellectuals' perceptions of China: Focus on the activities of "Chugoku Bungaku Kenkyukai" after the second World War
Project/Area Number |
20K13208
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Research Institution | Sendai National College of Technology |
Principal Investigator |
朱 琳 仙台高等専門学校, 総合工学科, 助教 (50815925)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 竹内好 / 武田泰淳 / 松枝茂夫 / 翻訳 / 脈絡転換 / 文化触変論 / 中国文学研究会 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度と同じく、2021年度もCOVID-19の影響を受け、予定通りに国内の資料調査を行うことができなかった。対応法として、できるだけ古書を購入、収集し、資料を集めて研究を進めた。その結果、以下二つの実績があった。 【1】2021年度に行われた竹内好と武田泰淳の比較研究を深め、異文化受容の際に見られる「異文化」に対する加工(「脈絡転換」)を検討した。従来、「脈絡転換」の現象は東アジアにおける儒学の伝播と受容という範疇に考察されてきたが、今回は竹内好と武田泰淳を通して、近代日本文学・思想という二つの視点から新たな考察を加えた。その成果は台湾で「脈絡転換」に関する共著の一部として公開された。 【2】中国文学研究会の同人――松枝茂夫の翻訳に関する研究である。松枝茂夫は従来『紅楼夢』の翻訳者として知られているが、彼の翻訳作の位置付けと意義を取り上げる先行研究はほとんど見当たらない。松枝茂夫の翻訳を歴史的な文脈で評価するため、戦後に出版された『思痛記』の翻訳経緯、翻訳特徴、そして国際文化学と異文化受容の視点から、その位置付けと意義を実証的に考察した。その結果、松枝茂夫の翻訳した『思痛記』は原文以上の臨場感で戦争の残酷さを表したことが明らかとなった。さらに『思痛記』の掲載意図を分析することによって、①外来文化の受容と既存文化との関係、②翻訳と他者認識との関係を提示した。従来の文化触変論からいえば、既存文化の部分的な解体にともない、外来文化が受容されると思われてきたが、松枝茂夫による『思痛記』の翻訳をめぐって導き出せたのは、外来文化の受容は既存文化の内部に存在する不合理性を示す役割を果たすことも可能であるという視座である。さらに、翻訳は単なる言葉の変換だけではなく、そこには翻訳者の解釈が無意識に加えられ、異文化を作った他者への認識に影響を及ぼすこととなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度も予定どおりに資料調査を実施することができなかった。現在までの進捗状況をまとめてみると下記の通りである。 ① 戦後の中国文学研究会の同人たちの活動資料を網羅的に収集する→まだ現地調査できていない。 ② 竹内好と武田泰淳を中心に戦後思想と戦後文学における中国認識の様相を描き出す。→『魯迅』と『司馬遷』との比較研究を実施できた。 ③ 松枝茂夫の翻訳を通して、文化交渉における中国認識の様相を描き出す。→『思痛記』の翻訳研究を実施できた。
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Strategy for Future Research Activity |
第一、国内調査を行い、同人たちの著作リストを補完する。 第二、近代日本文学・思想・翻訳に続き、言語問題から反映された戦後の中国認識を検討する。中国文学研究会の同人である実藤恵秀は、中国語改革をはじめ、日本の国語問題についても積極的に発言していた。実藤恵秀の言論と活動を取り上げることで、言語問題においてどのような中国認識が読み取れるかを考察する予定である。
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Causes of Carryover |
理由: COVID-19の国内感染の広まりによって、計画していた資料調査は実施できなくなり、学会はオンライン開催となり、旅費の支出はゼロとなった。 次年度の使用計画: できる範囲で国内調査を実施する。また、現地調査が難しい場合、古書・資料取り寄せなどの方法で資料を収集する予定である。
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