2021 Fiscal Year Research-status Report
近世ドイツにおける「宗教的寛容」概念に関する社会史、思想・法制史の横断的研究
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20K13211
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
鍵和田 賢 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (70723716)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宗派紛争 / 宗教的寛容 / 宗教的マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年の欧米社会における排外主義の台頭に伴い表面化しつつある西欧近代的な「宗教的寛容」の危機を背景として、近世ヨーロッパにおける「宗教的寛容」概念成立期の社会の分析を通じて、歴史研究の立場から「宗教的寛容」の新たな歴史像を提示することを目指すものである。 本年度については、新型コロナウイルス感染拡大の影響による海外渡航の困難などの状況に鑑みて、当初の計画を若干変更し、ヴェストファーレン条約による「宗教的寛容」関連諸概念形成の前提となった、17世紀前半における宗派的マイノリティの生活の実態に関する分析を行った。とりわけ、宗派的マイノリティの共同体内部における、非合法下で実施する典礼をめぐり発生した内部抗争と、その結果生じた共同体構成員の敵対宗派への改宗について分析した。対象としたのは、カトリック都市ケルンに暮らす改革派プロテスタント信徒共同体において発生した内部抗争である。分析の結果、宗派的マイノリティ共同体の内部は従来想定されていた程には一枚岩ではなく、個人と共同体との関係をめぐって様々な異なる見解が併存しており、対立宗派との間で紛争の危険が生じた時などには、これらの相異なる見解が激しく対立し合う場面が見られたことが明らかになった。また、ケルン改革派共同体は、同じ改革派信徒であっても、他都市の共同体に属していた者には露骨な不信感を示すなど、宗教的帰属よりも地縁的帰属を重視する側面が見られたことも明らかになった。この研究成果は、既に原稿提出済であり、夏頃の刊行が予定されている。 この研究成果は、「宗教的寛容」概念成立期の政治的・法学的議論を分析する際に、議論の当事者たちが想定していた「宗派共同体」なるものが、同一信仰の下で結束した組織というイメージでは必ずしもなかった可能性を示しており、本研究課題の推進に資するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国外・国内の出張を計画通り行うことができず、進捗状況に若干の遅れが生じている。今年度の主な研究計画であった、ヴェストファーレン条約起草段階における交渉の分析、および講和交渉期の宗派的マイノリティの生活実態の分析について、前者については関連史料を収蔵している図書館の訪問が困難であったことから、オンラインでの史料入手に変更して対応したものの、入手作業に時間を要したことから、後者の作業を優先させた。後者の分析については、研究成果としてまとめることが出来たものの、以上の理由から前者については作業の途上である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き①ヴェストファーレン条約起草段階における交渉史料を分析し、並行して②17世紀後半の帝国議会における「宗教的苦情」の分析、③17世紀後半・18世紀前半の法学者によるヴェストファーレン条約の解釈の分析、を行う。 ②③の作業については、当初の研究計画において国外での資料調査を予定していたものだが、次年度中の国外渡航の可否が読めない状況であり、新型コロナウイルス感染拡大の状況に応じて作業内容を変更する可能性がある。具体的には、オンラインにて入手できる資史料があれば、そちらを用いた分析に変更する。
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Causes of Carryover |
当初計画していた国内・国外出張が新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となったため、旅費支出が生じなかった。 次年度については、新型コロナウイルスの感染状況を見極めつつ、可能であれば資料調査のための国内・国外出張を実施する。
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