2022 Fiscal Year Research-status Report
Study on Interactions of Petitions with Policey for the Social Order in Early Modern Germany
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20K13213
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
小林 繁子 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (20706288)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近世ドイツ / ポリツァイ / 魔女 |
Outline of Annual Research Achievements |
領邦のポリツァイ形成への臣民の関与という本研究の関心にとって、神聖ローマ帝国の臣民が帝国レベルの裁判所を利用することができたということは重要である。帝国レベルを含めて臣民の働きかけを検討し、日本法制史学会第73回大会シンポジウムにおいて「帝国最高法院における魔女:名誉棄損訴訟の利用可能性の考察」として報告した。 この報告では、刑事としての魔女裁判ではなく、民事としての魔女名誉棄損訴訟に着目した。名誉はヨーロッパ伝統社会において不可欠の社会資本であり、名誉棄損に関する規定は古代から存在する。この種の訴えには領邦・都市の世俗の下級裁判所や教会裁判所から、帝国レベルの裁判所まで、幅広い裁判所が管轄権を有している。このような管轄の重複はどの裁判所を利用するか、臣民に選択の余地を与えていたと言える。本報告で取り上げた事例では、トリーア選帝侯ヨハン7世は中傷被害者からの請願を受け彼を一貫して支持したが、選帝侯の姿勢と裏腹に、トリーア高等裁判所は魔女裁判史料の開示を拒否するなど、選帝侯が代官や高等裁判所に行使しうる影響力は限定的だった。こうした状況において、帝国最高法院への提訴は原告個人の権益を守るためのみならず、選帝侯にとっても領邦の司法の主導権強化という意味を持ったと言える。ほかの事例では、帝国最高法院訴訟は和解を前提とした時間稼ぎ、下級審の判決執行の先延ばしとも思われる訴訟が見られた。こうした訴訟は、領邦裁判所における判決や上訴抑制のための規定を形骸化するものともいえる。こうしたポリツァイの形成・解体という逆方向への働きかけを分析するうえでも、引き続き帝国レベルを含めた分析を進めていかなければならない。なお、本報告は論文として2023年度中に出版予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度も新型コロナウィルス感染症の影響により、本科研に関して予定していた史料調査を行うことができなかった。また魔女以外の逸脱事例、裁判事例に関する資料収集も遅れている。22年度では帝国レベルでの分析の必要性が明らかになったため、帝国最高法院に関する二次文献の収集、公開されているデータベースから数量的な分析を行ったが、十分な数の具体事例分析にまで踏み込めていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度では、帝国レベルにおけるポリツァイ形成と臣民の働きかけを扱った。その際、帝国裁判所の利用を抑制するために、領邦レベルで種々の法令が出され、またそれが遵守されていない事例が明らかにされた。他方で、領邦君主が臣民からの訴えを領邦内にとどめようとする努力の中に、領邦内の大学を利用するという動きもみられる。司法の信頼性を保ち自らの支配権への正当性を担保するために、大学法学部の法学者による鑑定を利用していたからである。今後は、領邦裁判所-大学-帝国最高法院という三つのフィールドを設定し、それらを臣民がいかに利用したのかという観点からさらに文献・史料収集を進める。大学法学部の鑑定活動については2021年度に一定程度の史資料を収集し、比較国制史研究会で報告している。今後はライン・ヘッセン地域のマールブルク、ヴュルツブルク、マインツなど諸地域の大学の事例を収集し、ポリツァイ形成の観点から分析を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響から、2021年度中にドイツ文書館における資料調査を行うことができなかったため、期間を延長して2023年度中に渡航・資料調査を行う予定である。
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Research Products
(1 results)