2020 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半ハプスブルク帝国と諸領邦との相互認識―ガリツィアを事例に―
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20K13216
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Research Institution | Hachinohe National College of Technology |
Principal Investigator |
佐伯 彩 八戸工業高等専門学校, 総合教育科学科, 助教 (20840242)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ガリツィア / ハプスブルク帝国 / 近代中東欧史 / ポーランド |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、1867年~1874年までのオーストリア領ガリツィアで権勢を誇ったポーランド人議員の政治活動に関する先行研究と一次史料の分析を行った。当該研究において、対象としたポーランド人議員がフランチシェク・ヤン・スモルカである。彼に関する手稿史料は、2019年にポーランドで入手していたので、これらの史料とガリツィア領邦議会議事録を分析した。これらの研究の分析結果を2020年8月のハプスブルク史研究会と同年9月のドイツ現代史学会大会においてオンラインで報告した。そして、学会で得たコメントをもとに、分析を進め、現在論文執筆に向けて活動している。 また、本研究を進めるにしたがって、ガリツィアのポーランド人議員がオーストリア帝国政府とどのような関係を結ぶべきかという議論について、さまざまな意見が提示されていることが分かった。例えば、スモルカは、オーストリアへの「連邦制」による国家的秩序の安定を提案しているが、フロリアン・ジェミャウコフスキやスタニスワフ・タルノフスキなどは、あくまで「ガリツィア独自の自治」を保持する姿勢を示している。こうしたポーランド人議員たちの間で生じていた帝国における領邦の政治的立場をめぐる認識の相違を明らかにすることは、オーストリアをはじめとするハプスブルク帝国諸邦とガリツィアとの政治的立場の変化を明らかにするうえで重要な問題である。 以上のことから、ポーランド人議員の間で生じたガリツィアの政治的立場に関する議論の分析を通じて、ガリツィアとハプスブルク帝国諸邦との政治的関係・立場の変化、並びに相互認識の検証を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度4月より八戸工業高等専門学校に助教として着任した。着任後、早々に新型コロナウィルスの世界的流行を受けて、本校でも対面授業からオンライン授業へと移行した。そのために、オンライン授業用に授業内容を再構築しなければならなくなった。さらに、本校の業務に関する研修などにも時間を要したため、上半期においては当該研究を進めることが困難な状況になった。 さらに、夏季・冬季にポーランド・ウクライナ・オーストリアの3か国で史料収集に関する現地調査を予定していた。しかし、これに関しても先述した感染症が各地域で蔓延し、滞在地として予定していたポーランド・ウクライナ・オーストリアおいて、ロックダウンが発令されるほどの甚大な被害が生じていたため、渡航不可能となった。 そのため、作成を進めている論文は、現在保持している史料のみを反映させている。 また、オーストリア帝国議会における政治的用語の多くが近世由来の表現方法であるため、オーストリアの帝国議会制度や憲法の変遷などを理解することにかなりの時間を要した。これについては現在も継続して用語理解に関する更なる深化を進めている。同時に、ポーランド人議員同士の政治的多面性が予想以上に広範囲に及んでいた。これにより、1年目で分析しようと考えていた他領邦の議員との政治的交流についても、今後分析を進めていかなければならない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度に実施を予定していた現地調査が中止になり、今年度も渡航が可能であるかは未確定である。そのため、現在保持している一次史料ならびに二次文献をもとに、できる限り研究を進める。その際に、インターネット上で閲覧可能なオーストリアやポーランドの定期刊行物などを参照しつつ、そのほかの諸領邦の議員たちの政治活動を分析する。普墺戦争敗北後に生じたアウスグライヒ体制において、ハプスブルク帝国内部では、アウスグライヒ体制への批判と、自領邦も同様の体制を整えることができるのではないかという期待とが入り交じり、領邦間での積極的な政治交流や他領邦との待遇・状況の比較の議論が活発になる。これらの議論をガリツィアのポーランド人議員がどのように自身の政治に反映させたのかについて分析する。 並行して、研究の第二段階に進む。第二段階では、ガリツィアとハプスブルク帝国との仲介者からみた諸邦の相互認識について明らかにする。その対象となるのがガリツィア総督アゲノル・ゴウホフスキである。ゴウホフスキ関連史料については、2019年の現地史料調査ですでに入手済みである。この史料を分析し、帝国政府のガリツィアへの関心をゴウホフスキがどのように感じていたのかを明らかにする。 そして、現状では困難ではあるが、ウィーン・ポーランド・ウクライナへの渡航が可能となり次第、改めて現地調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
初年度予定していたポーランド・ウクライナ・オーストリアでの現地調査が中止となった。また、本年度は新型コロナウィルスの感染拡大を受けて他大学の研究者を交えた対面での研究報告会が実施困難となった。そのため、参加すべき研究会や報告を行わなければならない研究会がすべてオンラインでの開催となった。これにより、予定していた渡航費・交通費の使用が実質的になくなった。さらに、着任先から研究スタート支援費が支給された。その額が予想以上に多く、研究活動を始めるうえで十分な設備を整えることができた。一方で、その分、本研究における未使用額が生じる事態となっている。 次年度、購入を予定していた二次文献、ならびに、研究・教育についての必要な物品の購入を進める。さらに、今年度も渡航できるかはわからないが、現状が整い次第、海外での現地調査・研究者との研究交流を進める。
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