2022 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半ハプスブルク帝国と諸領邦との相互認識―ガリツィアを事例に―
Project/Area Number |
20K13216
|
Research Institution | Hachinohe National College of Technology |
Principal Investigator |
佐伯 彩 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (20840242)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 中東欧史 / ハプスブルク史 / 西洋近代史 / ポーランド人議員 / ガリツィア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではポーランド人議員と諸領邦の議員との個人レベルでの相互認識、ならびに新聞報道などのメディア媒体における諸領邦からのガリツィアに対する政治的認識・関心を提示する。この二つの視点からガリツィアと諸領邦の双方が互いにどのような関心を持ち、そうした関心が帝国政治に反映されたのかについて実証的にに明らかにすることを目的とする。 第一段階では個人レベルの政治活動について、第二段階ではガリツィアとハプスブルク帝国の仲介者から見た諸領邦についての相互認識を明らかにすることに努めた。予定では、第三段階の領邦内並びに、そのほかの諸領邦におけるガリツィア関連報道についての分析を行うことになっていた。しかし、令和二年度の研究が遅れていたこともあり、第二段階のガリツィア総督ゴウホフスキにみられる諸領邦のガリツィアに対する関心および第三段階で明らかにしようとしているメディアによるガリツィア関連報道の分析をまとめて行った。そして、2022年10月8日東欧史研究会・ハプスブルク史研究会合同個別研究報告会(オンライン開催)にて研究報告を行い、さまざまな知見を得た。そして、これらの分析を踏まえて2023年3月にポーランドのワルシャワ、クラクフ、ヴロツワフでで12日間にわたり史料調査を実施した。史料調査に際して訪問した各文書館で不足分の史料を収集した。クラクフのヤギェウォ大学では、先行研究者のスタニスワフ・ピヤイ氏と会い、ガリツィアの議員ならびにガリツィア総督ゴウホフスキに関する最新の研究状況について意見を交わした。帰国後、現在10月の研究報告会で得た知見とともに論文執筆ための史料とピヤイ氏より得た文献を現在精読し、現在論文の執筆を進めている。また、現在のロシアのウクライナ侵攻と関連して研究領域であるガリツィアに関する理解の普及のため、愛知県世界史教育研究会で中東欧に関する教材開発についての報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度に八戸高専に着任後、コロナ対応の授業構築をした。その後、通常授業へと戻ったこともあり、再度通常授業に適した形に新たに授業資料を再構成することになった。また、以前から所属していた高大連携歴史教育研究会において、令和3年度より新たに施行された「歴史総合」の授業資料案の作成に関するワーキンググループに入り授業資料の作成などを行っていた。さらに、令和4年度にガリツィア関連書籍の執筆を開始した。それから、帝国書院より依頼された資料集『最新世界史図説タペストリー(二十一訂版)』の「ウクライナ侵攻」に関する巻頭ページの作成と世界史探究の指導書を執筆していた。 その一方で、コロナ禍に加えて、去年の2月に発生したロシアのウクライナ侵攻により、現地での史料調査がますます困難になった。史料調査対象地であるウクライナへは入国はできるが、調査対象地であるリビウでの調査が難しいことが分かった。このように現地での史料調査や先行研究者との交流が難しいことから、研究は当初予期しない形で遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
去年度、ポーランドでの史料調査ならびに先行研究者との直接の面談ができた。若手研究の最終年度である本年において、現在進めている論文を完成させ、『西洋史学』あるいは、『スラヴ研究』に投稿する。また、今夏に再び現地での史料調査を行う。史料調査地は、ポーランドとオーストリア、チェコ、ハンガリーである。ここで約1か月にわたり、史料調査や先行研究者との研究交流を行う。ウクライナに関しては、現在リビウでの史料調査ができるかは未確定である。そのため、もし史料調査ができない場合は、オーストリア・チェコ・ハンガリーで出版されている定期刊行物などを中心に史料を収集および分析を進める。史料調査において得られた知見とこれまでの分析をもとに9月30日実施予定のドイツ現代史学会大会で研究報告を行う。 研究計画に関しては、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻に直面し、研究の進め方を大きく変更せざるを得なかった。その一方で重要な気づきもあった。去年度行った口頭報告において、ガリツィア総督のゴウホフスキの政治的重要性がガリツィアの政治志向を理解するうえで非常に重要であることがわかった。また、先行研究者との交流を経てゴウホフスキに関する研究は、遅々として進んでいないことも理解した。当初は、ハプスブルク帝国諸邦におけるメディアを取り扱い、ガリツィアの政治的立場を明らかにしていこうと考えていた。しかし、ゴウホフスキという人物をとおしてオーストリアと諸領邦、そして、ポーランド人議員双方が、ガリツィアという存在をオーストリア社会においてどのように位置づけたのかを分析したほうが、ガリツィア政治史面だけでなく、思想面にも新たなインフルエンスを与えることができると考えられる。そこで、去年度までの諸段階での分析を踏まえ、ゴウホフスキに投影されるガリツィアの政治的立場を分析していく。
|
Causes of Carryover |
研究会が実質的にすべてオンラインになったため、旅費がほとんど使用されなくなった。また、去年度の夏まで現地調査を行うことができなたった。 そのほか、先行研究について、毎年多くの書籍を購入するうえで重要な会場であった日本西洋史学会大会が前年度に引き続きオンライン開催となったため、書籍購入が積極的に行われなかった。
|