2022 Fiscal Year Research-status Report
Writing Women in Medieval Europe: Intellectual Activity and Text Production in Helfta
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20K13223
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三浦 麻美 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (40814893)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 西洋中世史 / 女性 / 宗教運動 / 神秘主義 / リテラシー / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
西洋中世における女性のリテラシーに焦点を当て、「書く」という行為が社会的に持ち得た影響力を学問・学芸活動の文脈から考察した。分析対象である神秘主義文書は、時間や空間を超越した超自然的体験を主な記述対象とする。また、このジャンルの著作には女性の関与が多く見られる。そのため、従来の研究は女性による特殊な宗教的体験の記録と位置付けてきた。しかし、本研究は中世を通じて数百点に及ぶ写本が流布しえた作品は同時代の知識人や学術傾向と密接に関わった可能性があると考え、その具体的内容と背景の解明に取り組んだ。 ヘルフタ修道院で作成されたテクスト群については、前年度に引き続き、ハッケボルンのメヒティルトとヘルフタのゲルトルートの幻視テクストにおける記述の変遷を辿ることで、通時的な発展過程を論じた。中でも、ゲルトルート『神の愛の使者』第1巻の構造分析を行い、スコラ的な分割の手法とサン・ヴィクトルのリカルドゥスの「上昇」という概念を組み合わせることで、個人的な幻視体験が修道院共同体の中で共有されるようになった過程を明らかにした。この点については研究報告、講演で発表を行った。その際の質疑応答を反映して論文として投稿し、1点は刊行済み、もう1点は現在編集作業中である。 また、このような宗教性が修道院の周辺地域で受容された背景を明らかにするため、隣接するテューリンゲン地方で同時期に存在した聖人崇敬にも注目し、聖人伝や証書の分析を通じて女性の神秘体験が俗人信徒にも伝播し、信仰の対象として認められていたことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は神秘主義テクストの伝播と受容を考察するため、ヨーロッパの文書館での写本調査を課題としていた。しかし、新型コロナウイルスの発生による海外渡航の困難さと感染への懸念に加え、ロシアのウクライナ侵攻による航空事情の混乱、エネルギー不足による社会的混乱の影響などを考慮し、予定していたような長期的な渡航計画を延期せざるを得なかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続きテクスト内容の分析を行い、さらにその伝播についても検討対象を広げる予定である。現在のところ、今年度中に現地での文献調査を予定しており、その際に異写本の分析に着手するが、分析対象を変更せざるを得ない。『特別な恩寵の書』に関しては、当初の予定にあったアイスレーベン、ヴォルフェンビュッテルに加え、デジタル化によりアクセスが可能となったライプツィヒ写本の使用も考えている。しかし、ライプツィヒ写本は近年発見されたばかりのもので写本系統も不明な部分が多いため、他の写本や校訂本との比較検討による成果をあげるにはさらに時間が必要になるものと考えられる。 また、ヘルフタの神秘主義文書伝播の下地を作った地域背景の解明も進める計画である。ヘルフタ修道院近隣のシトー会女子修道院関連史料の分析を行い、人的交流の実態や聖務に関する情報を新たに得ることで、神秘主義霊性が地域の宗教性に与えた影響を評価することを考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大とロシアによるウクライナ侵攻による交通事情並びにヨーロッパ現地での混乱を避けるために2022年度は文献調査の実施を延期したため、次年度使用額が発生した。これについては、2023年度に可能であればドイツの文書館で文献調査を行うために使用する予定である。また、国内での学術成果を交換するために学会(日本西洋史学会大会、西洋中世学会)に参加予定であり、そのための参加費、交通費と宿泊費としても支出を予定している。 さらには、これまでのテクスト分析に基づく研究成果の発表に際して外国語での要旨、英文での論文投稿のために必要となる外国語のネイティブチェックサービス費用、文献購入費用としても使用予定である。
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