2020 Fiscal Year Research-status Report
縄文時代の石材獲得と石器製作・流通に関する研究 -山梨の流通中継遺跡からの視点-
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20K13237
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
金井 拓人 帝京大学, 付置研究所, 助教 (60779081)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 黒曜石原産地推定 / 水晶原産地推定 / 蛍光X線分析 / 赤外分光分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では縄文時代の石材獲得と石器製作ならびに石器流通像を明らかにするため、黒曜石原産地推定手法の新規開発と、水晶および黒曜石製遺物の原産地推定、また、得られた遺物の原産地情報と石器器種の関係の検討を実施する計画である。 黒曜石原産地推定手法の開発は、黒曜石製遺物の化学組成を利用することを念頭に、非破壊での化学組成分析のための内部標準試料作製と、異なる装置間でのデータの比較を実施した。しかし結果では、分析対象とした元素の中では軽元素となるKおよびCaで装置によって系統的に元素濃度に差が生じてしまい、計画通りの成果は得られなかった。そこで、標準試料および内部標準試料の分析前処理方法を再検討することで正確な化学組成データを得る方法について検討を開始した。一方で従来黒曜石の原産地推定に利用されてきた蛍光X線強度比であれば、据置型XRFによる真空雰囲気でのデータと可搬型XRFを用いた大気雰囲気でのデータを変換することが可能であることを明らかにした。これにより可搬型XRFを用いた黒曜石製遺物の原産地推定が可能となった。 遺物の原産地推定では水晶については山梨県の馬場平遺跡および奥豊原遺跡出土遺物、また縄文遺跡と比較するための旧石器遺跡出土遺物の原産地推定を実施した。黒曜石については前述したように分析およびデータ変換手法を確立し、これまでに甲府盆地南部および東部を中心に約3,000点の黒曜石製遺物の原産地推定を実施した。2021年度中に、水晶・黒曜石ともにルーチン化して遺物の原産地推定の分析点数を増やしていく体制を整えることができた。 石器の分類については、従来の器種別分類に加え、石材の加工度合い(自然面や加工面)などを分類する方法を検討し、その検討を終えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
黒曜石原産地手法の新規開発については2021年度中に完了する計画であったが、至らなかった。この原因は異なる装置で内部標準試料を分析した際に、対象とする元素の中では軽元素となるKおよびCaで装置によって系統的に元素濃度の差が生じたためである。そこで遺物の分析を優先し、従来用いられてきた蛍光X線強度を用いた原産地推定手法を申請者の所属機関で所有するハンドヘルドXRFに適用することを検討し、原産地推定の分析手法を確立した。この方法を用いて甲府盆地南部および東部を中心に約3,000点の黒曜石製遺物の原産地推定を実施した。水晶については当初の計画通りに原産地推定を実施できているが、2021年度に新たに発掘された遺跡のうち2つの遺跡から水晶製遺物の出土報告があり、これらの遺物についても分析実施のための手続きを進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間全体で約10,000点の黒曜石製遺物の原産地推定を計画しており、分析手法については2021年度までで確立できたため、その手法を用いて分析点数を増やしていく計画である。同時に石材や石器の流通実態を解明するためには石器器種や剥片形態ごとの原産地データが必要となるため、分析点数が確保できた段階で石製遺物の観察内容と原産地推定結果の照らし合わせを実施する。また、黒曜石原産地手法の新規開発についても継続して実施し、2022年度中に従来の指標では複数の原産地が候補となってしまい原産地をひとつに絞り込めないといったケースに対応する解析手法を開発する。
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Causes of Carryover |
2021年度は新型コロナウイルス感染症流行にともない黒曜石原産地での調査が実施できなかったため、旅費が大幅に未使用となった。また、本研究では分析資料を博物館等から借用する計画であったが、移動規制等の影響を受け7月まで博物館等への訪問ができず研究開始が全体的に遅れ、人件費についても未使用が生じた。一方で、黒曜石の化学組成分析について、当初の予定になかった高精度の分析装置を利用する必要性が生じ、その分析装置の使用料のためその他費用が計画を上回った。 翌年度の使用についても、旅費については申請額よりも使用額が少なくなることが見込まれるが、今年度の未使用額とあわせて、申請時に想定できなかった課題である黒曜石の化学組成分析に不可欠となる資料前処理の消耗品費や分析装置の使用料、また、より詳細な顕微鏡観察のための顕微鏡関連備品などに利用する計画である。
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