2021 Fiscal Year Research-status Report
DNA半減期の解明―生物標本の保存環境と分析可能性について
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20K13248
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Research Institution | Hokkaido Museum |
Principal Investigator |
表 渓太 北海道博物館, 研究部, 学芸員 (70761659)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DNA断片化 / 剥製標本 / 保存科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、DNA分析の技術の進歩にともない、生物標本に新たな価値が見いだされるようになってきている。従来は生体サンプルが必要であった分析が、長期間保存されていた標本から得られる微量のサンプルからでも可能になったことにより、形態学的な研究利用に限られていた標本が様々な分野で利用されるようになった。 DNA分子は比較的安定とされてはいるが、時間の経過とともに着実に分解が進行する。DNAの分解には紫外線・酵素・水分・温度等の条件が関わっており、その残存量は保存環境や経過時間に大きく左右される。しかしながら、どのような条件下でDNAがどれだけの早さで分解するのかについては、ほとんど定量的な研究が行われていない。もし、標本の年代・状態・保存環境等からDNAの残存量を推算することができれば、より効率的・確実に分析を進めることが可能になる。 本研究課題では、おもに剥製標本を対象に、様々な条件下におけるDNAの量と質の変化を定量的に評価することを目的としている。2021年度は前年度に引き続き、ニワトリの羽毛を材料として用いた中期の実験を続行した。各条件を設定し(温度条件:冷凍・冷蔵・室温・高温、光条件:白色LED・長波紫外線・直射日光、および過湿条件)、数週間~1年間経過した後に、総DNA量の測定およびPCR法による増幅可能なDNA断片サイズの簡易的な判定を行った。また、より長期的な変化を明らかにするために、博物館に約50年間保管されてきた剥製標本についても同様の分析を行った。これらの結果、紫外線による影響が特に大きいこと、数千塩基対以上の長いDNA断片は急速に失われる一方、数百塩基対以下のDNA断片は比較的長く残存することが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた実験はおおむね予定通り進んでおり、傾向の明らかな結果が得られつつあるため。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2022年度は、追加実験、データ解析、および成果の発表を行う。 前期には定量PCR法を用いて、特定の領域・サイズにおけるDNA残存量の測定を行う。そして、それぞれの条件下・断片サイズにおけるDNA半減期を推算するために、DNA残存量と各断片サイズについての解析を行う。 後期には研究成果を学会・論文等で発表する。また、それ以降に研究者や博物館関係者を対象に普及を行う。博物館には利用されることなく収蔵されている標本が多数あるが、こうした資料は適切に管理しなければ時間とともに遺伝学的な情報を失っていく。そこで、標本等の活用を促すとともに、DNAの保存に最適な条件を公開・普及することで、様々な分野で利用される可能性をもつ標本の価値を維持するために、本研究の成果を活用していく。
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Causes of Carryover |
2021年度はおおむね予定通り支出したが、当該年度の所要額合計の1%程度の残額が生じた。 翌年度の請求分と併せて、当初の計画通り支出する予定である。
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Research Products
(1 results)