2021 Fiscal Year Research-status Report
水損した民俗文化財における鉄汚染被害の解明と対処方法の構築
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20K13249
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Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
金澤 馨 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (60834265)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鉄汚染 / 木製文化財 / 水損 / 文化財レスキュー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象としている民俗資料、特に木製文化財には、木材と鉄材が用いられている場合が多くみられ、博物館施設等への収蔵後、温湿度等の周辺環境によって、水分の介入による鉄汚染という木材の変色現象が発生する可能性がある。 特に近年多発する大型台風による洪水や地震発生時の津波等により、鉄汚染を発生させる媒体である水分が木材中に大量に浸透し、文化財資料の外観を大きく損ねる事例が多々見られている。 そこで、被災した水質や資料材質、温湿度等の環境条件が変色の発生の有無、発生に至る所要時間、変色の継時変化を明らかにすることで、文化財レスキュー時に求められる対処方法と対処すべき資料の優先順位、レスキュー後に求められる保管環境が決定可能になると考える。 昨年度より継続的に、被災資料の材質や環境的要因が鉄汚染の発生に与える影響を把握するため、サンプルを用いた実験と観察を行っており、木製文化財に使用される傾向の多い、ヒノキ・スギ材を一辺5㎝、厚さ1㎝に統一した試験体上に一辺2㎝の純鉄材を乗せ、その後の変色の有無、変色発生時の濃淡や発生にいたる時間の傾向を観察した。木材試験体は津波や洪水により被災した状況を想定しているため、同量の海水、河川水、水道水、イオン交換水にて試験体を湿潤状態にさせた後に実験を開始し、木材に浸透した水分の性質によって鉄汚染の変色への影響について比較検討している。また、昨年度から継続中の実験では、木材を湿潤させた後に金属製トレーに設置した上で上記の実験を行っているが、本年度においては金属製トレー内に各種水分を注水し、そこに試験体を設置することで常時水分が木材中に存在する状態での変色の挙動を観察している。ただしトレーに注水した水分の揮発により実験条件の湿度をコントロールすることが困難であるため、同一の温湿度中での時間経過による挙動のみを観察し検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度より継続中である鉄汚染の変色発生にかかる実験においては、木材中のタンニンと鉄イオンの接触、反応により変色が生じるため、鉄材表面の状況が変色の発生に大きく影響し、鉄材に被膜が形成されている場合、鉄イオンの流出が抑制され、当初想定していた時間よりも多くの時間を要した。鉄材表面の紙やすりにより研磨し、被膜が形成される前に同様の実験を行った結果、明らかに変色発生に至る時間が早くなることが確認された。結果としては鉄イオンが流出する速度が変色の発生速度に直接的に影響し、海水等の鉄の腐食を促す媒体が接触した場合にはより鉄汚染発生のリスクが増大することが考えられる。ただし、木製文化財に使用される釘等の鉄材に腐食生成物である錆が見られる場合において、変色が生じていないケースも見られるため、木材の浸水後、腐食と変色の関係性をより検討することが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究内容としては、当初の研究計画の通り、鉄汚染の変色が文化財に与える影響を把握するため、木材サンプル上に施した墨書や朱書上に変色が発生した場合、文化財情報の視認性への影響の有無を確認する。また、金属腐食が木材強度へ与える影響の様に、鉄汚染の発生によって木材強度が低下するのかどうか、強度試験を行い把握することを予定している。ただし、現状において本研究の主軸である鉄汚染の発生における環境因子や浸透した水分との関係性を優先し、結果の考察、検討を行っていく。 また、当初は水害を受けた博物館等の木製文化財の所蔵先への実地調査を行う予定であった。研究の初年度より新型コロナウィルスの影響のため、現地への移動が制限、自粛せざるを得ない状況であり、現状は比較的状況は落ち着いているものの、研究の主軸である実験を進行させるためにも、実地調査についてはまた別の機会に行うものとする。
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Causes of Carryover |
当該年度においては昨年度同様、新型コロナウィルスの蔓延に伴う国内の移動規制により、関係学会への参加、実地調査や文献調査の実施が困難となったため、旅費の使用に影響が生じた。 また、文献および実地調査による実験の条件設定や実際的に発生している変色現象の観察等を予定していたが、同様の要因により安易に調査を行うことが困難であっため断念した。 次年度における旅費の使用については、研究の主軸である実験を主体に行い、予想できない国内の感染状況を加味し、実施調査については断念することを視野に入れている。研究の主となる実験についても全体的な遅延が生じているため、今年度の実施予定の計画と並行し、遅延分の実験についても早急に実施していく。
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