2021 Fiscal Year Research-status Report
大都市圏インナーエリアにおける持家のアフォーダビリティに関する研究
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20K13268
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
熊野 貴文 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (60865848)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 持家 / アフォーダビリティ / 東京都市圏 / 居住地選択 / 親―成人子関係 / 近居 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中核的作業として、大阪都市圏のインナーエリアにおける持家取得世帯を対象にインタビュー調査を実施する予定だったが、2020年度に引き続き新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって対面での調査は難しい状況であった。こうした状況を踏まえ、当該年度では、不動産流通情報サイトや現地調査からデータを収集するとともに、公的統計のミクロデータなど定量的な分析方法を検討した。これらの研究活動によって、まず調査対象地を大阪都市圏から東京都市圏に変更した。変更の理由は以下の二点である。都市住宅市場に関する民間調査によると、近年では大阪都市圏と東京都市圏ともに都心部の新築および中古マンション価格が上昇しているが、東京都市圏ではその程度が特に顕著であり、持家のアフォーダビリティの問題もより顕在化していると考えられること。また、東京都市圏ではバブル経済以降も全国から人口の社会増加が続いており、現在の住宅取得世帯の分析において東京圏出身者と東京圏外出身者との間で親―成人子関係を比較することが有効になると考えられることである。ただし、東京都市圏ではセクター(方角)による社会経済的な居住分化が明瞭であるため、それを念頭に置いて対象地域を選定する必要がある。例えば、同じ都区内におけるミニ開発の戸建分譲住宅でも、城東地域と城西地域では販売価格が数千万円近い差があることを現地調査や不動産流通情報サイトで確認できた。本研究は、低金利政策の下で持家取得が低所得者層に拡大していることで、持家のアフォーダビリティが課題として浮上していることに着目しているため、低所得者層も購入可能な住宅が供給されている地域を対象にする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、中核的作業として持家取得世帯を対象にインタビュー調査を実施する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、代替の調査方法を検討していた。その結果、分析手法をインタビュー調査から公的統計のミクロデータの利用と個人を対象としたアンケート調査に変更した。公的統計のミクロデータについては、近年の統計法改正によって公的統計の個票情報の提供対象が拡大されたほか、オンサイト利用が可能になった。本研究では、一般に公開されている集計では捉えられない様々な変数間の関連を探索的に分析する必要があるため、オンサイト利用のメリットは大きい。これによって、当初予定していたインタビュー調査では明らかにできない戸建住宅居住世帯の全体的特徴を定量的に明らかにすることができる。また、個人を対象にしたアンケート調査については、住宅取得世帯の居住地選択に関する先行研究が単一の意思決定主体として世帯を想定していたのに対して、家族社会学におけるネットワーク論の視角に基づいて世帯の住宅取得および居住地選択を個人に着目して分析する方法である。このような調査方法の変更によって、インタビュー調査の利点であるインフォーマントの語りは分析の対象外となる一方、戸建住宅取得世帯の全体的特徴や居住地選択を定量的に明らかにすることができる。研究の進捗は大きく遅れたものの、定量的な分析方法の導入によって新しい意義を見出すことができる点で、研究は一定程度進捗したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、分析手法をインタビュー調査から公的統計のミクロデータの利用と個人を対象としたアンケート調査に変更した。これによって、調査設計からインフォーマントの確保・対応まで新たに取り組まなければならない作業が発生する。今年度にデータを着実に収集し、そこでの成果を学会報告に結実させたいと考えている。また、先行研究の整理について、今後も、欧米先進国の都市あるいは東アジア都市を対象にした海外の議論を積極的に摂取して、自分の研究を位置付ける作業を引き続き行っていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当初本研究の中核的作業として実施する予定であったインタビュー調査が2021年度に実施できなくなったためである。本来であれば、インフォーマントへの謝金や音声データの文字データ化の費用が発生する予定であったが、インタビュー調査自体が実施できなかったため、その分が翌年度に繰り越しとなった。 次年度の使用計画としては、公的統計のミクロデータの利用と個人を対象としたアンケート調査にかかる経費を支出する予定である。また、調査と並行して進めている先行研究の整理で必要になる海外の書籍・文献を購入する予定である。
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