2022 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの先住民工芸とオーサーシップをめぐる人類学的研究
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20K13276
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
田本 はる菜 成城大学, 文芸学部, 専任講師 (20823800)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 先住民 / クラフト / 台湾原住民族 / オーサーシップ / 東アジア / エスニック・マーケティング / 文化産業 / 文化創意産業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、台湾先住民族の手工芸実践において、技能や作品をめぐるオーサーシップがどのように形づくられているのかを、近隣諸外国にまたがる制作や流通についての民族誌的調査から明らかにするものである。多様なアクターの協働から作品が生み出され、その帰属が定められる一連の過程から工芸のあり方を理解することにより、専ら制作という局面を強調してきた従来の人類学の技術論を拡張し、今日の先住民族の工芸・芸術をより包括的に捉える枠組みを構築することが研究の目的である。 前年度に引き続き、オーサーシップに関する文献研究を進め、これまでに収集した民族誌的事例への適用可能性を検討し、研究会において報告した。また今年度は、短期間ながらベトナム・ホーチミン市および台湾台北市でのフィールド調査を実施することができた。ホーチミン市での調査目的は、台湾先住民族のあいだに流通するベトナム由来の服飾素材や既製小物について、その流通・販売経路および関連する組織と個人について情報収集を行うことであった。滞在期間を通じて、ホーチミン市内にある2箇所の小売市場および1箇所の問屋街、さらに既製品の販売店舗において、台湾に流通しているものとみられる服飾品や製作パーツの販売状況について情報を得ることができた。また台湾調査では、民族衣装などの製作に用いる素材の入手状況について、台北市内の大規模な布市場での観察と聞き取り調査を実施した。この間、原住民族タイヤル、アミの手工芸従事者へのインタビューを行い、服飾品の製作や利用の現状について詳細な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、前年までコロナウイルス感染症により困難であった海外調査を、ベトナムと台湾の2か所で実施することができた点で、大きな前進があった。しかし、いずれも短期調査であり、得られたデータは基礎的なものにとどまっている。とりわけ、今回得られた小売店舗に関するデータのほか、加工従事者、購買者への調査がいまだ不十分であるため、当初の予定よりやや遅れている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度も、①台湾原住民族の手工芸環境の変化と政策的背景の解明、②織物制作と流通についてのフィールドワーク、③民族誌記述と分析概念の構築のための理論研究を行う予定である。これまで困難であった海外調査が実施可能な状況になったため、現地を訪れて①および②の計画を進める。また③についても継続し、先行する人類学的議論の整理と検討を進め、成果公表のための事例分析を年度末までに行う。
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Causes of Carryover |
2020年度および2021年度に予定していた海外調査が新型コロナウイルス感染症の影響で中止となり、2022年度への繰越額が当初の予定よりも大きくなったため、2022年度は海外調査を実施したものの次年度使用額が生じた。2023年度は、これまでより長期の海外調査の実施が可能となるため、調査旅費として、また成果公表のための英文校閲費、資料購入費などに使用する予定である。
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