2021 Fiscal Year Research-status Report
身分階層制における日常倫理の人類学的探究:現代ミクロネシアの首長制を事例に
Project/Area Number |
20K13278
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
河野 正治 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (20802648)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 日常倫理 / 身分階層制 / ミクロネシア / 首長制 / ポーンペイ島 / 内在的変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
身分階層制に関する近年の人類学的研究は、植民地統治からの影響等による外在的変化に焦点を置いてきた。これに対して、本研究は、在地に生きる人びとが自らの振る舞いを「より善い」実践へと洗練させるプロセス、すなわち、日常倫理(=住民による「より善い」実践の日常的な探求)の様相を検討することにより、身分階層制の内在的変化を明らかにし、当該領域の発展を図るものである。とりわけ、複数の価値や論理が交錯する場面において(1)いかなる実践が求められているのか、(2)そうした実践を支える判断がいかに日常のなかで形づくられるのかを、ミクロネシア連邦ポーンペイ島における民族誌的研究の見地から解明することを検討課題としている。 2年目となる令和3年度は、ミクロネシアを含めたオセアニア地域に関する人類学的文献の検討を進めるとともに、過去の調査資料をもとに事例分析をおこなった。 研究成果として、『嗜好品から見える社会』(春風社)に「カヴァ飲みのゆくえ:オセアニア島嶼内外における人と在来作物の多義的な関わり合い」と題する論考を、大島崇彰氏との共著論文という形で寄稿した。そこでは、カヴァという在来作物から作られるカヴァ飲料が、日常的な交流を深める嗜好飲料とも、健康リスクの高い飲料とも、身分階層制の価値を体現する儀礼的な道具ともみなされうることに着目した。そして、カヴァを体内に摂り入れることをめぐって複数のモラルが重なりあう様相を描き、ミクロネシア連邦ポーンペイ島の身分階層制をめぐる今日的なモラルの交錯状況の一端を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の世界的な蔓延状況から、当該年度もミクロネシア連邦に入国することができず、現地調査を断念せざるを得なかった。オンラインでの調査の可能性や現地住民を介したアンケートの実施なども検討したが、モラルと倫理という主題の特性ゆえ、形式的な調査では代替できない部分が多いことから、当初の計画から変更を余儀なくされている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度にミクロネシア連邦ポーンペイ島への入国と現地調査が可能になれば、ミクロネシア連邦ポーンペイ島でのフィールドワークを実施し、複数のモラルの共存下における倫理的判断について具体的な調査研究を積み重ねる予定である。そうでない場合にも、過去の調査資料の検討や、オセアニア地域のその他の社会の民族誌的研究の再検討をおこなうことによって、事例研究ベースでこの主題を深めていきたいと考えている。同時に、日常倫理の人類学に関する近年の研究成果を検討し、分析枠組みを精緻化する予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の不確実な状況から、国内・海外ともに出張旅費を執行することができなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は年度当初から規制が徐々に緩和されていることを踏まえ、前年度に執行できなかった国内外の出張計画を遂行する予定である。
|
Research Products
(9 results)