2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K13281
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
齋藤 恵美 奈良女子大学, 全学共通, 特任助教 (60791796)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熊野信仰 / 常世信仰 / 山岳信仰 / 世界観 / 境界性 / 外部性 / 開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
人は生存のために社会を形成する。神々をまつる神社は、社会の内部の関係性をあらわす媒体、あるいは外部と関わり社会のありかたを規定する媒体として、その社会を象徴する機能を持つ。つまり神社は、人々が内部と外部を物理的・心理的にどのように捉えてきたのかという、ものの見方や認識としての世界観をあらわす装置といえる。 熊野信仰は発生や歴史的展開から、境界性を反映した外部性の強い信仰であることが分かっている。熊野信仰系神社は各地に勧請され全国に分布しているが、人々はこの神社を空間のどこに配置したのか、また時代によってその傾向に差異があるのかを検討することで、人々が実際に外部というものをどのように認識し関わってきたのか、またそこに変化があるのかをみていく。そのため、熊野信仰系神社の性格(位置・勧請の時期・祭神・縁起など)を整理し、その所在地を整理したデータから古代~近代までの勧請された時代別に地図に落とし、熊野信仰の時間推移と空間配置の関係を明確に可視化するという作業を行っている。 令和二年度は、下地となる地図に河川・山・峠などの自然地形と各時代の交通に関するデータ(道路や街道、駅や宿駅、湊津や河岸)を入れ、東北・関東地方の地図を作成した。二つの地域のデータ分析から、共通する傾向として、どの時代も一貫して交通の要衝となる場所に勧請されているということ、中世以降には修験との関りが指摘できること、近世以降はムラの鎮守として勧請されるケースが出てくることが挙げられた。その一方で様々な性格が各地域特有の傾向としてあった。この比較により、人々の外部との関りかたにも、同時代の人々が抱く共時的感覚としての全体的な連続性と、地域的な断絶性のあることが見えてきた。こうした外部との境界の位置設定の仕方や、境界そのものの捉えかたの変化や違いは、人の開発のありかたや歴史にもつながると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナをテーマとした論文を執筆することとなり、本研究に充てる時間が研究計画段階で想定していたよりも減少したことによる。 また、入れ込むデータの選別に手間取り、表記の全国的な統一などの試行により、初年度に予定していた下地地図の完成には至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和三年度は、昨年度に完成しなかった下地地図を完成させる。それと並行して、熊野信仰系神社の性格(位置・勧請の時期・祭神・縁起など)を整理し、その所在地を整理したデータから古代~近代までの勧請された時代別に地図に落とす作業を行い、北陸・中部・近畿地方の分布地図を作成する。 令和四年度は、引き続きデータ整理を行い、中国・四国・九州・沖縄地方の分布地図を作成する。全国の分布地図が完成次第、全国的な傾向と地域的な傾向の分析を行う。 当初の計画からの変更として、データ整理に使用する基本資料を『平成「祭」データ』(神社本庁教学研究所研究室編)と熊野三山協議会がまとめた全国熊野神社のデータとしていたが、熊野三山協会のデータは使用しないこととした。理由として、熊野三山協会のものは、全国の熊野信仰系神社の完璧な網羅を目指しているが、本研究においては熊野信仰系神社の空間配置の傾向をつかむことに主眼を置いているため、多すぎる情報はかえって煩瑣となる恐れがあると判断したためである。
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Causes of Carryover |
関東・北陸方面への出張をコロナのため取りやめたことで出張費を使用しなかったこと、初年度の進捗状況がやや遅れたため作図ソフト・地図ソフトの一部を購入しなかったこと、コロナにより学生アルバイトを少し減らしたため予定していた人件費を使用しなかったことにより次年度使用額が生じた。 令和三年度は、出張に関しては状況次第になるが、可能ならば昨年度計画していた調査も併せて行う予定である。進捗状況の遅れへの対応として、学生アルバイトを増やし、昨年度購入しなかったソフトを購入することで、当該助成金を使用する。 令和三年度に請求した助成金は、当初の予定通り使用する。
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Research Products
(1 results)