2021 Fiscal Year Research-status Report
ニューギニア高地における紛争の感情と「実存の時間」に関する人類学的研究
Project/Area Number |
20K13285
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
深川 宏樹 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00821927)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 紛争 / 感情 / 身体 / 社会性 / 言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、これまで申請者がパプアニューギニアで研究してきた紛争の処理と感情の動態という枠組みを、新たに過去・現在・未来にわたる「伝記的な生」に光を当てる「実存の時間の人類学」的アプローチへと展開し、紛争とその処理の文脈で発せられる感情的な言葉が、周囲の人々の現在に影響し、未来にわたって持続する効果をもつに至る社会的機制を解明し、独自の身体-感情言語論として理論化することにある。 本研究では、上記の研究目的を達成するために、2021年度は主に、エンガ州の紛争処理の枠組みとその歴史的変遷や、そこでの感情とともに発せられる言葉の意義を、生涯にわたるライフサイクルや、個々人の実存的な「伝記的な生」の時間的深みとの関連で解明するため、文献調査と理論研究を行った。 当該地域において、紛争に起因して発せられる感情的な言葉に対する社会的・文化的関心は極めて高く、この言葉に対処する諸制度が用意されている。具体的には、慣習的な仲裁、植民地期に導入された村落裁判、キリスト教の告白儀礼等がある。ただし、それらの場における「感情の調停」は、一時的に怒りや悲哀を緩和し言葉の効力を軽減するものの、本質的に完全解決が達成される類のものではなく、ゆえに、当時者の感情が再度悪化すれば、問題の言葉も再び社会的効果をもちうると考えられている。こうした状況下、人々は身体-感情的な言語とどのように向き合い、その言葉が埋め込まれた文脈を創り変え、身体-感情的な言葉を取り扱っていくのかについて、紛争処理の諸形態や、ライフサイクル、「伝記的な生」の時間性まで視野に入れた研究を行った。そこから、個々人の実存的な「伝記的な生」の時間的深みをもつ感情的な言葉が、紛争処理における言語的な操作や「感情の調停」でいかに再解釈され、当事者や周囲の人々を突き動かしていくのかを明らかにし、国内の研究会で口頭発表を行い、研究成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は、おおむね順調に進展している。2021年度は文献研究と先行研究批判、ならびに理論研究を実施し、現地における紛争・感情・身体・言語の関係と、感情に焦点を当てた紛争処理の動態的構成についての資料収集と、その理論モデル化を展開する、発展的な理論枠組みの構築を行うことができた。 また、2021年度は、国立民族学博物館の共同研究会で研究発表を実施することで、その成果を公表するとともに、専門家との有益な意見交換を行うことができた。そのため、2021年度は、研究成果の積極公開を行うとともに、次年度に向けた研究蓄積を着実に進めることができた。 以上の理由から、当該年度は研究が順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、パプアニューギニア高地エンガ州を対象に、当該地域で社会的に最も注目される紛争の身体-感情的な言語の問題を取り上げ、その言葉が当事者や周囲の人々の現在と未来にいかに影響や変容を及ぼすかに関して、紛争処理の枠組みとその歴史的変遷との関連から、文献調査と理論研究を行った。今後の研究の推進方策として、2022年度は、以上の事例研究をふまえ、次の理論研究を行う予定である。①言語行為論に基づく古典的な紛争・感情・言語論から、近年の紛争・身体-情動研究、倫理と感情の人類学等を検討し、独自の身体-感情言語論を彫琢するとともに、②人と物が共に紡ぐ「伝記的な生」を主題化した時間の人類学、さらに特異な「実存主義」へと展開した「実存の時間の人類学」等を検討し、①の理論と接合して、さらなる発展を試みる。
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Causes of Carryover |
パプアニューギニア、エンガ州における現地フィールドワーク実地調査(海外調査)を予定していたが、新型コロナウィルスの影響で、パプアニューギニア、エンガ州における現地フィールドワーク実地調査(海外調査)を実施することができなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。次年度使用額の使用計画は、パプアニューギニア、エンガ州における現地フィールドワーク実地調査(海外調査)を実施する予定である。
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