2021 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the Expression Mechanism of Dignity through the Recovery Process of the Great East Japan Earthquake
Project/Area Number |
20K13286
|
Research Institution | Reitaku University |
Principal Investigator |
内尾 太一 麗澤大学, 国際学部, 准教授 (30759569)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 文化人類学 / 尊厳 / モノを通して考える / マルチスピーシーズ / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年、2022年3月11日で東日本大震災の発生から11年が経過した。申請者は、宮城県南三陸町の復興を長年にわたってフィールドワークしてきた。 とりわけ、本研究課題が対象としている後期復興過程においては、災害公営住宅・高台移転先での住民コミュニティの形成や、人口減少の中での地域活性化・産業振興の取り組み、震災を直接経験していない世代への記憶・教訓の継承が、人々の関心事となっている。 それらの調査においてキーワードとなるのが、尊厳(dignity)である。 本研究プロジェクトでは、復興過程において、今の被災地に生きる人々の尊厳の現れを重要な現象として捉え、 その発現メカニズムの解明を主要課題としている。 震災発生10年の節目を迎えてからの1年は、これまでの被災地の10年を総括をするとともに、「脱震災」のまちづくりも念頭に置いたこれからの地域社会のあり方を考える期間となった。新型コロナウィルスの感染拡大状況に調査が左右される時期は続いているが、その苦境に直面しているはフィールドの人々も同様である。コロナ禍以前から自らの住む町を「課題先進地域」と捉え、多くの町外からの視察を受け入れてきた。そして現在のウィズコロナの取り組みでもその精神が発揮されつつある。本研究が明らかにしようとしてきた尊厳は、そうした困難経験を乗り越えようとする人々とともに現れるものだといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年5月に「犠牲と弔いの10年史:宮城県南三陸町を事例に」という口頭発表を行い、「災害と観光ーー東日本大震災の被災地における『ダークツーリズム』」という文章が収録された書籍が出版された。犠牲者や震災遺構、という観点から震災発生からの10年を総括する研究成果を残すことができた。 その後は、フィールド調査の代わりに南三陸町の人々とのオンラインワークショップに参加したり、尊厳に関する文献調査を進めた。 そして、2022年3月には現地調査を実施し、感染対策をした上で多くの南三陸町の人々から、今の地域社会や復興について聞き取り調査をすることができた。また屋外でのフィールド調査として、町の漁業者や林業者の仕事の現場も視察した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年3月の調査を受けて現在、この研究プロジェクトにおいて、特に注目をしているのは人間と自然の関係で、具体的には今日の被災地における持続可能な一次産業の取り組みを追っている。 2011年に日本を襲った東日本大震災は、人間が生態系の中で自らの立場を危うくしていることを示す出来事でもあった。ゆえに復興過程では、おのずと自然と共生していくという発想が生まれてくる。さらに、そこへSDGsに代表されるグローバルな価値観を取り入れようとする、進取の気性に富む復興の担い手の存在が登場してくる。宮城県南三陸町の場合、町の漁業やと林業者が震災後にそれぞれ、ASC認証(Aquaculture Stewardship Council認証、「海のエコラベル」と呼ばれる)、FSC認証(Forest Stewardship Council認証、「森のエコラベル」と呼ばれる)を取得し、国際的な水準での持続可能な自然資源の管理を行なっている。フィールドでは、人と海、人と山の関係において、尊く侵しがたいものとしての自然や、それを傷つけないことを誇りとする漁業・林業のプロフェッショナルの姿が立ち現れてくるのが観察できる。最終年度は、そうした人々に注目し、引き続き、船上や山中での調査を行なっていく。
|
Causes of Carryover |
予想していたよりも調査地である宮城県南三陸町への訪問回数および滞在期間が減ってしまったことが理由として挙げられる。2022年度は、自ら現地で十分に活動できない部分を補ってくれる現地協力者への謝金を手厚くするつもりでいる。
|