2021 Fiscal Year Research-status Report
A Historical Ecological Study of Landscape Formation in the Coastal Areas of Minamata Bay, Shiranui Sea
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20K13287
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
下田 健太郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター, 准教授 (90823865)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 水俣 / 景観 / もやい / 自然環境 / 生存 / 痛み / 歴史生態学 / 環境人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、水俣病を生き抜いてきた人びとが、汚染された海をはじめとする自然との関係を結び直すために試みてきた諸実践を、水俣湾沿岸域における人と自然環境の関係史に光を当てながら明らかにすることである。 本年度も新型コロナウイルスの影響により本格的なフィールドワークの実施は叶わなかったが、可能な範囲で現地の方々との対話を継続するとともに、歴史生態学や環境人類学分野における先行研究のレビュー、水俣湾沿岸域の景観形成にかかわる様々な情報(地形、海岸生物、植生、漁撈活動、漁撈具、海洋資源の管理・分配制度、民俗的知識)のデータベース化、これまでの現地調査で得た資料の分析に力を注ぎ、その成果を国際会議等で発表した。主な成果は下記の通りである。 第一に、国際的な水銀規制のとりくみのなかでミナマタの経験が「負の遺産」として捉えられてきたプロセスを跡づけるとともに、水俣湾沿岸域で水俣病と共に生きてきた人びとがそれをいかに受けとめ、どのように関わってきたのかを検討した。なかでも、環境サミット等に参加しながら自身の経験を伝えてきた人びとの実践からは、個々の身体だけでなく、人と人、人と生きもの、人と海の関係までもが深く傷つけられたことが念頭に置かれつつ、そのような痛みを共有していくための方法が模索されてきていることがうかがえた。 第二に、水俣病の被害者有志を中心とするグループ、「本願の会」のメンバーと協働しながら同会発行の機関紙『魂うつれ』を編集してきた経験にもとづいて、コロナ禍がミナマタの経験を新たに捉え直し、発信していくための機会にもなりうることを指摘した。 第三に、水俣病をその身に引き受けながらも不知火海で漁を続けてきたある家族の語りと実践に注目し、彼らが水銀に汚染された魚たちとの関係をどのように結び直そうと試みてきたのかという点について、予備的な検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響により本格的なフィールドワークの実施は叶わなかったが、可能な範囲で現地の方々との対話を継続するとともに、文献資料の渉猟とこれまでの現地調査で得た資料の分析によって、複数の成果を公表することができた。また、2021年4月から熊本大学に着任し、同大学文書館や国際人文社会科学研究センターの研究者と連携体制を構築できたことも、重要な成果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの現地調査で得た資料の検討を継続するとともに、水俣湾沿岸域における人と自然環境の関係史についてさらに考察を深めるために、熊本県の水俣・芦北地域において現地実態調査と文献資料調査を実施する。その上で、水俣病と共に生きる人びとが汚染された海・生きものとの関係をいかに結び直してきたのかという点についての検討を進めていく。加えて、本研究をより広範な文脈に位置づけるために、歴史生態学や環境人類学、生態民俗学分野における先行研究のレビューを継続していく予定である。
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Research Products
(3 results)