2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋生物の捕獲と養殖をめぐる文化人類学的研究:中国・台湾・フィリピンの事例から
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20K13290
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
藤川 美代子 南山大学, 人文学部, 准教授 (10749550)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 石花菜 / テングサ / 海藻 / 台湾 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、日本における寒天原藻および寒天の生産・加工・流通に関わる現地調査と史資料調査を重点的に実施した。得られた成果は以下のとおりである。 1)台湾:日本統治時代に台湾東北部で「海女」と呼び得る人々が誕生した背景には、①明治期以降、寒天・テングサが国際商品化したこと、②日本が植民地政策下でテングサ漁場開拓を試みたことが影響している。また、彼女たちの現在を考える時、③素潜り漁の男性、タンクを背負う原住民やダイバー、産地問屋など多様なアクターとの関係性や、④世界の海藻産地との競合、消費地の中国大陸・香港・韓国・日本との関係、⑤露店での商品販売をめぐる海女同士の駆け引きなどミクロかつ日常的な部分への注視が必要不可欠である。 2)日本:①静岡県伊豆半島の須崎・仁科両地区での現地調査から、多種の寒天原藻が産地の海女から選別作業担当者、各生産地の漁協へ、入札を経て仲買業者へ、全国各地のトコロテン・寒天加工者へ、菓子店等へと受け渡されていく過程では、各アクター間に海藻に関わる知識の著しい不均衡と分断が見られつつも、仲買業者を通じて日本国内の生産・加工・流通に関わる各アクターや世界の寒天原藻の産地とが確かにつながる様を見て取ることができた。②日本の寒天が世界的な需要を生んでいた江戸時代後期から昭和60年代頃までに、日本各地・朝鮮・台湾・中国・東南アジア・欧米をつなぐハブとして重要な役割を果たしたと思われる大阪の「俵物会所」を中心とする海藻問屋に関する資料を収集・分析しつつある。③1910年代に、チリ政府の依頼を受けた近代捕鯨の父・岡十郎が漁場調査に赴いた後、テングサを含む海洋資源の採捕権を求めて智利漁業株式会社を設立する経緯に、渋沢栄一・近藤廉平・浅野総一郎らが関わっていたことや、日本人がアメリカで寒天原藻の採集・寒天への加工を実現したことなどが当時の新聞資料から明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、当初予定していた海外調査は実施不可能な状況にあるものの、本課題採択前の2019年度までに実施した台湾での現地調査で得られたデータをまとめ、考察する作業が大幅に進展した。さらに、日本国内における寒天製造現場や寒天原藻の入札を取り仕切る部署での調査のなかで、海外産の海藻の輸入状況や輸入ルート、具体的な使用状況を知ることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
海外調査再開のめどがたつ場合は、台湾での調査を実施する。主な地域と調査計画は、以下のとおりである。1)東北部で、各種海藻の採集・加工・売買の状況を把握する。2)澎湖諸島で、海藻の採集・養殖・加工・売買の状況を把握する。3)台南で、寒天原藻・その他の海藻の仲買・輸出入に関わる業者への聞き取り調査。4)台湾全土で、寒天製造工場の調査。 海外調査が再開できない場合は、日本国内での調査を継続する。主な調査計画は、以下のとおりである。1)ところてん・寒天製造業者の海藻に関する知識と、仲買業者・生産地との関係を把握。2)寒天原藻の入手ルート(含・開拓ルート)、原藻の評価と価格設定の方法について把握。3)各種寒天原藻の生産地における海藻の採集方法・分類・選別方法について把握。 得られたデータについては、研究会や学会で発表し、他の研究者と意見交換することを目指す。
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Causes of Carryover |
予定していた海外調査が実施できなかったため。2022年度分として請求した助成額と合わせて、海外・国内の現地調査および資料調査、資料購入、物品購入に充てるつもりである。
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