2021 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological study on ethno-medical practices among Mapuche organizations in Chile
Project/Area Number |
20K13296
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
工藤 由美 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (80634972)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | マプーチェ医療 / 先住民組織 / 通文化医療 / 敬意(respeto) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、チリで1996年に始った先住民保健特別プログラムによって提供されてきた民族(マプーチェ)医療の成功を、医療的・社会的側面から明らかにしようとするものである。開始当初は「受診患者の7割は先住民」とされていたが、その後先住民患者以上にチリ人患者が増加し2012年にはチリ人患者が8割を超え、以来高水準が続いている。 他方、マプーチェの故地チリ南部の土地返還要求運動が2000年代以降過激化してきており、この土地返還運動をめぐる暴力的衝突の報道はチリ社会の対マプーチェ観にも影響を与えている。 昨年度に続き、今年度も新型コロナウィルス感染症の蔓延で現地調査が実施できず、現地協力者との情報交換による当地の状況の追跡、新規に入手した文献の検討、既得の調査資料の再検討を継続した。その結果、以下3点が明らかとなった。第1は、民族医療を公的な医療制度の枠内に取り込むに当たっての政府側の目論見である。チリの先住民研究、政治学領域の論文の検討が示すのは、民族医療の制度内への取り込みがはじめからチリ国民全体への適用を意図していたことである[Figueroa 2020他]。第2は、首都の先住民組織の土地取得のあり方である。2000年以降、首都圏の先住民組織活動が活発化し、組織活動を名目とした土地取得も急増した。歴史学、地域研究領域の論文によると、首都における先住民組織の土地獲得プロセスは、19世紀後半、「平定」の名の下にチリ国家がマプーチェ領土を奪った構図と相似で[Caulkins 2018他]、一定の土地を「無主の地」とみなすことから発している。第3は「通文化医療」という理念の現場での実践についての既得調査資料の再検討である。そこでは相互のレスペート(respeto:敬意)を理由に「踏み込まない」態度が一貫していた。これら3点の知見は今後の国家先住民関係の展開を考える上での重要な素材である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初は、1~2年目は現地調査を中心に実施し、マプーチェ医療を受診中の患者や、受診歴を遡っての元患者、そして彼らの家族に対しての聞き取りを実施し、マプーチェ医療に関わる状況の通時的変遷について患者側の視点から一定の展望を得たいと考えていた。しかし、計画初年度より新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延のため、チリでも緊急事態が宣言され、国境閉鎖や夜間外出禁止などさまざまな制限が課される事態となり、現地調査は実施不可能であった。 その結果、各年度の研究計画の変更と調整を余儀なくされた。昨年度(2020年度)は不定期ではあるものの先住民組織のオンライン会合に参加することができ、その他のオンライン会合やチャットをも通じて、現地の人々との間で一定の情報収集はできたものの、現地調査のような参与観察に基づいた充実した情報には乏しく、2年目となった今年度ではオンラインによる現地の人々との情報交換にも行き詰まりが感じられた。今年度は文献調査と過去の調査資料の再検討を通して、一定の成果を得ることはできたが、計画当初に予定していた、マプーチェ医療を受診する患者らの参与観察とインタビューは積み残されたままになっている。現地調査がいつ再開できるか未だ予断を許さない部分はあるが、引き続き文献調査、既得の調査資料の再検討とオンラインでの現地の人々との情報交換を継続し、現地調査が再開できた場合に備えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
チリでは新変異株の登場によって新規感染者数が再び増大している状況にはあるが、同時に高いワクチン接種率を背景に、海外からの渡航や国内での移動制限に関しては、ワクチン接種証明書等の携行を条件に、制限の緩和が進みつつあり、今夏(2022年度)の現地調査実施に向けて現地情報を収集中である。 現地調査の実現可能性を模索することと並行して、昨年度、今年度と同様、文献研究、既得の調査資料の再検討を継続し、継続的にオンラインによる現地とのコンタクトを取りつつ、可能な限り現地の状況の把握と情報収集に努めていく予定である。なお、文献研究に関しては、関連する周辺領域への拡大も考慮中である。
|
Causes of Carryover |
2020年度に引き続き2021年度も、新型コロナウィルス感染症の蔓延により、チリでは国境閉鎖や夜間外出禁止、地域間移動の禁止などの措置が続き、現地調査の実施はまったく不可能であった。そのため、現地調査のための渡航費、滞在費、調査協力者謝金として予定していた助成金が大幅に未使用とならざるを得なかった。 未使用分については、次年度以降、当該感染症の収束状況、ワクチン摂取の普及状況、チリ政府の対応状況と、現地でのマプーチェ医療提供活動の再開状況をみながら、適切な時期に現地調査を再開する予定であり、未使用分の多くは、その際の渡航費、滞在費、現地交通費、調査協力者謝金などに使用する予定である。 また、現地調査の進行に伴って、その成果をまとめて国内、国外の学会で研究発表することを計画しており、未使用分の一部は、その際の参加費、渡航費として使用する予定である。
|