2022 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological study on ethno-medical practices among Mapuche organizations in Chile
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20K13296
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
工藤 由美 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (80634972)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | マプーチェ医療 / 先住民組織 / チリ人患者 / パンデミック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、チリで1996年に始まった先住民保健特別プログラムによって提供されてきた民族医療(マプーチェ医療)の成功を、医療的社会的側面から明らかにしようとするものである。マプーチェ医療の成功とは、開始当初の「受診者の7割は先住民」という規制にも拘わらず非先住民のチリ人患者が顕著に増加したことだが、その後規制は撤廃されこの10年ほどはチリ人患者が7割程度で推移している。 今年度の実績は①論文(査読あり)1点、②学会発表(査読なし)1点、③研究集会のシンポジウムでの発表(査読なし)1点、④現地調査の実施の計4点である。①の論文は、成功の要因の一つとしてマプーチェとチリ人患者の間で使用されている「自然」という言葉の意味を分析した。自然に対する意味付けは両者の間で大きく異なるが、それは表面化させないまま、「自然はいいもの」という両者共通の肯定的価値つけを基盤として相互受容が成立していることを明らかにした。②の学会発表は、近年の環境人類学の知見を参照しながら、マプーチェの土地に関する認識を再考したものである。③のシンポジウム発表は、現地調査中に、現地の研究者による通文化医療に関する集会で、日本の漢方薬の制度化に関する発表を行ったものである。 ④現地調査は8月から9月にかけ約1ヶ月間実施した。新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延後の調査でもあり、コロナ禍のマプーチェ医療状況と受診患者についての聞き取り、マプーチェ医療実施拠点2箇所での参与観察、マプーチェ先住民組織活動の参与観察などを実施した。その結果、1)パンデミック下での具体的なマプーチェ医療の実施状況、2)チリ人患者のマプーチェ文化に対する評価の変化と受容の拡大、3)先住民組織の構成員の変化に伴う実施内容の変化等が明らかになった。これらの現地調査で得られた一次資料に関しては、引き続き、文献調査と並行して考察を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度は4年計画の本研究の3年目で、過去2年間コロナ禍により実施できなかった現地調査をようやく実施することができた。しかし、新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延以降初となった今回の調査では、コロナ禍中の現地の生活の変化や、コロナ感染予防と関連するマプーチェ医療実施上の変化、マプーチェ医療実施母体の先住民組織自体の変化とそれに伴うさまざまなレベルにおける現地の人間関係の変化など、調査の基盤となる部分に生じた劇的な変化を把握することに多くの時間と労力を割かざるを得なかった。過去2年間、オンラインでの情報交換は欠かさなかったものの、現実に目にした変化は想像以上のものがあったからである。 また、現地調査を実施できたとはいえ、まだコロナ禍の渦中であったため、現地での行動範囲を制限せざるを得ず、本研究における調査の核心となる予定であった患者宅への継続的な訪問とインタビューや、複数のマチへのインタビューと参与観察などは実施できないままになっている。この点では、次年度も引き続きオンラインで現地の関係者との情報交換を継続し、少しでも多く予定していた現地調査が可能となるよう進めていこうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症に関して、調査地のチリにおいても移動の規制や行動制限の緩和が進んでおり、2023年度夏の現地調査で、これまでの3年間で実施できずにいた調査内容を可能とするために、引き続き現地情報を収集中である。 ただし、可能な現地調査期間は限定されているため、現地調査の実施内容は再検討が必要であり、それと並行して調査計画も編成し直すことになる。これまでの調査内容・既得の調査資料の再検討と文献研究の継続と同時に、オンラインで可能な限りの情報収集と現地状況の把握に努め、調査計画をアップデートしていく予定である。なお、文献研究に関しては、関連する周辺領域への拡大も考慮中である。
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Causes of Carryover |
計画の前半2年間コロナ禍のために現地調査が不可能であったことと、今年度(2022)にはじめて現地調査が実施できたとはいえ、制限の多いものとならざるを得ず、現地調査用の予算をすべて使用することは不可能であった。実際、今年度の調査は依然コロナ禍の渦中での実施であり、また調査が医療に関する内容で、日常的に病院や患者と接触する状況にもあり、感染予防に配慮しつつ、現地の人々の動き方も参考にしながら、自主的に移動制限、接触制限等を設けながら調査を実施せざるを得なかった。 未使用分については、次年度以降、当該感染症の収束状況、チリ政府の対応と、現地でのマプーチェ医療提供活動状況をみながら、適切な時期を選んで現地調査を実施する予定であり、未使用分の多くは、その際の渡航費、滞在費、現地交通費、調査協力者謝金などに使用する予定である。また、現地調査の進行に伴って、その成果をまとめて国内、国外の学会で研究発表することを計画しており、未使用分の一部は、その際の参加費、渡航費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)