2021 Fiscal Year Research-status Report
グローバル化時代における国家の中立性:その哲学的基盤と含意の再検討
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20K13301
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
米村 幸太郎 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (00585185)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リベラリズム / 中立性 / グローバル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
異なる善き生の構想に対して国家は中立的でなければならない。本研究は、この中立性の要請の理論的根拠を再検討し、グローバル化に伴う社会の多元化の進行 という現代的状況に対して中立性が有する含意を明らかにしようとするものである。そのために国家の中立性の要請の適切な再定式化を行う(課題1)。中立性がリベラリズムの重要な理論的モジュールである以上、「いかなる中立性か?」についての答えは、「い かなるリベラリズムか?」にも当然依存するからである。その上で、適切な中立性の定式化とその背後にあるリベラリズム理論に立脚し、それがグローバル化した社会において持つ含意を解明する(課題2)。すなわち中立性は、宗教、文化などの多様な善き生の構想に対して、国家がいかなる政策を採ることを要請するのかを、具体的文脈に即して明らかにする。 本年度は、主として課題2に関わる先行研究を批判的に検討した。ラボルドの理論枠組みが、喫煙規制や芸術の支援のようないわゆる卓越主義的政策に対してもつ含意を検討した。彼女の「分解アプローチ」は元来宗教への取り扱いをめぐる文脈で展開されているが、穏健な卓越主義的政策を正当化する余地を残すと同時に、卓越主義的政策への複数の批判的指針を提示するものでもあると考えられる。一方、宗教や文化をめぐる取り扱いに対して、分解アプローチがどのように応答すべきなのか、特に公務員への宗教的シンボル着用の問題に即して、関連する議論を渉猟した。 課題1についても、分解アプローチの理論的前提になっている、いわゆる法の表出理論(expressive theory of law)の妥当性についての議論を検討した。分解アプローチ自体は支持しうると考えるものの、この法の表出理論については、妥当でないという結論に傾きつつあり、現在その点を論じた論考を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画では、各年度において、国内/国際学会での研究報告を行い、逐次的に批判的フィードバックを得て、研究の質を高めるとしていたものの、今年度もパンデミックの影響で報告を予定していたものが中止になった。また、フォーマル/インフォーマルな研究会も中止/延期になったため、アウトプットの機会も逸した。さらに、研究成果を一括して単著の形で公表することを考えていたが、未だ脱稿に至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
オンラインでの学会を積極的に利用して、昨年度逸していた報告の機会を埋め合わせると同時に、一括で単著化しようとしていた成果を、論文に分割して順次公表したいと考えている。
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Causes of Carryover |
引き続きコロナ禍において国際・国内学会参加のための旅費支出がなくなったため。オンライン参加可能な学会があれば参加を検討しその登録料を支出すること、および旅費支出との関係で購入を控えていた文献や電子ジャーナルの購入に使用する予定である。
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