2022 Fiscal Year Research-status Report
憲法における「象徴」概念の意義-統合機能と立憲主義の相克
Project/Area Number |
20K13322
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
江藤 祥平 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (90609124)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 憲法 / 立憲主義 / 象徴 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の3年目にあたる令和4年度は、日本国憲法における象徴概念の意義について、総論・各論の双方の観点から検討を加え、その研究実績を各々1つずつの論文にまとめて公表した。以下、各論文の内容に即して、研究実績の概要を示す。 各論的検討:日本国憲法における象徴の意義を検討する上で、個人の「氏」の問題を外すことはできない。というのも、氏は今日では、国民一人ひとりの人格を象徴する意義を有するものだからである。目下の問いは、婚姻によって婚姻当事者の一方だけが氏の変更を強制される事態が、憲法に違反していないかどうかである。すでに最高裁判所大法廷の多数意見はこの問いに対し二度にわたり否定に解したが、そこでは象徴の問いが完全にやり過ごされている。「夫婦の氏とデモクラシー」と題する論文では、夫婦の氏の統一が象徴するものと象徴されるものの間に「必然性」を見出す試みであること、しかし象徴の意義に鑑みるなら、象徴は未完結の地平に見られるべきであることが明らかにされた。 総論的検討:象徴天皇制の位置づけを近代国家の枠内で見つけるのは容易ではない。それは戦前においても戦後においてもそうである。「立憲主義と個人」と題する論文は、まず戦前における宗教ナショナリズムと天皇制の結びつきについて、天皇と絶対君主の異同を参照しつつ明らかにしている。次に、戦後は、憲法9条というしばしば政治的現実に翻弄され続けてきた平和主義の象徴が、天皇という象徴と結びついて居場所を見出したこと、その一方で天皇による象徴作用の独占に反対する作用が国家にダイナミズムをもたらしてきたことを明らかにしている。 以上をまとめるに、象徴はそれ自体は空虚な概念であるが、その内容を志向する様々な作用があってはじめて、近代国家との融和は可能になると結論づけられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の開始はパンデミックの開始時期と重なったため、当初の研究計画からは大幅に遅れをとる形になったが、3年目の令和4年度において当初の計画にかなり追いつくことができた。必ずしも研究計画で予定していた順序通りに研究が進んでいるわけではないものの、当初は各論的見地から研究を行い、令和4年度はそれを総論的フレームワークに落とし込む作業もだいぶ進んだことから、全体として研究計画が実を結びつつある。 もっとも、当初予定していた文献調査は、在外研究と重なったこともあり、この点は思ったようには進んでおらず、最終年度に残された課題である。また、海外のジャーナルへの投稿は、本来であれば3年目から行いたいところであったが、この点も今後の課題として残されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和5年度では、象徴天皇と近代憲法の関係性を明らかにするための調査研究を行う予定である。これまでの検討で明らかになったことをより有機的に関連づけて、現代的課題に対する示唆を引き出すのが一番の目的である。また、平成デモクラシーにおける平成の天皇の役割については、政治学や宗教学など様々な分野で議論されているが、これを近代憲法学の中でどう評価し落とし込んでいくかも重要な作業である。 同時に、持続可能な皇室という視点から、今後の天皇制をどう憲法の中に位置づけていくかという作業も重要である。いっときのナショナリズムによって天皇制を支えようとする仕組みが、法体系としては脆弱であることは疑いなく、他方でナショナリズムと全く切り離された形で天皇制を構想するのも憲法の目指すところとは異なる。国内においても世界観や価値観がますます多様化する中で、国家および国民統合の象徴を一人の人間が背負うことの意味をより突き詰めて明らかにできればと思う。
|
Causes of Carryover |
令和4年度はいまなおコロナ禍で出張に自由が効かなかったため、旅費を大幅に持て余した。それに伴い生じるはずだった文献調査に要する費用も大幅に消化できずにいる。もっとも、本研究を完遂するには、いまだ文献調査が不十分であることは否めず、最終年度に当たる令和5年度では、研究報告や文献調査を通じて、物品費および旅費を充てる予定でいる。
|