2021 Fiscal Year Research-status Report
Rebuilding the International Legal Order on Shared Water Resources: Toward Integrated Management of Rivers and Oceans for the Land-Based Pollution
Project/Area Number |
20K13336
|
Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
鳥谷部 壌 摂南大学, 法学部, 講師 (40823802)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 原発処理水海洋放出 / 健全な環境に対する権利 / 国際河川重大損害防止義務 / 国際河川衡平利用原則 / 純粋環境損害の金銭賠償 / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究成果は以下の通りである。第1に、陸起因の海洋汚染に関する国際法上の基本原則を明らかにする作業を、福島第1原発からの処理水の海洋放出という最新の時事問題の検討を通して行った。その成果は、「原発処理水の海洋放出」(国際法学会エキスパート・コメント)として国際法学会ホームページ上に公表済みである。第2に、陸起因海洋汚染問題に関する国際法秩序を再構築するという本科研の中心的課題の解明に向けて、最近、急速に法規範として発達を遂げている「健全な環境に対する権利」についてその性質及び内容を明らかにする作業を行った。その成果は、第25回環境法政策学会で発表した後、「米州人権条約における「健全な環境に対する権利」の法的根拠―ラカ・ホンハット協会先住民族対アルゼンチン事件の検討を中心に―」と題する論文を摂南法学第59号に掲載した。第3に、国際河川法の基本原則である重大損害防止原則と衡平利用原則の関係に関する学説論争が、国際河川の海洋汚染が深刻なナイル川における上流国(エチオピア)と下流国(エジプト)の間の水紛争でいかにして現れるかについて考察を行った。その成果は、水資源・環境学会2021年度冬季研究大会において、「大エチオピア・ルネサンスダム(GERD)建設に伴うナイル川国際法秩序の変容―重大損害防止原則と衡平利用原則の相克」というテーマで発表を行った。この発表の成果は、摂南法学第60号に掲載予定である。この他にも、本科研費の成果物として、環境それ自体を国の法益と見なし、純粋環境損害に対する金銭賠償の査定を行った初の国際裁判例の分析・検討を行った(「国際司法裁判所 国境地帯ニカラグア活動事件金銭賠償判決[2018年2月2日]」摂南法学第58号、及び、「環境損害に対する国際法上の賠償額算定方法―国境地帯ニカラグア活動事件金銭賠償判決の再評価―」環境法政策学会誌第24号に掲載済み)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
陸起因汚染の海洋汚染の国際法秩序の再構築を行うという本科研の課題は、申請時には、海洋プラスチックごみ問題に焦点を当てて行うとしていた。しかし、コロナ禍という想定外の事態に直面し、ナイル川下流域を中心として行うことを予定していたフィールドワークが実現に至らなかった。そこで今年度は、コロナ禍の状況下においても研究成果を積み上げられるようにすべく、研究手法をフィールドワーク中心のスタイルから、資料分析型のそれに見直しを行った。その結果、国際河川法と国際海洋法の両国際法秩序の統合に示唆を与え得る新しい権利として、健全な環境に対する権利の発見につながった。また、福島第1原発処理水の海洋放出の問題に着眼することにより、国際河川法と国際海洋法を架橋し得る法規範として協力義務の重要性を再認識することができた。こうした新たな権利や法規範は、陸起因海洋汚染に関する国際法秩序の再構築という本科研の課題解明に当たり、それぞれ別々に独自の発展を遂げてきた国際河川法と国際海洋法をつなぎ合わせるための有益な因子になる可能性がある。その意味において、今年度実施した研究内容は、本科研の全体の研究の進展に効果があったものと評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、本科研の最終年度であるから、本研究の中心課題である河川と海洋の統合的管理に向けていかなる理論構築が可能かという自身が立てた問いに応答することが求められる。本研究の最終目的は、申請書にも記したように、淡水と海水に関する統一的な国際法秩序を形成するための有効な視座を得ることである。
|
Causes of Carryover |
これまで本科研では、本研究課題の解明に欠かせないと思われる専門図書を中心に支出してきた。その多くはすでに購入済みである。ただし、近々刊行予定の関連図書もある。そうした図書の購入費に充当したい。
|
Research Products
(9 results)