2021 Fiscal Year Research-status Report
裁判員裁判を踏まえた相互闘争状況における正当防衛の判断基準の研究
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20K13351
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
木崎 峻輔 中央学院大学, 法学部, 准教授 (70754076)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 正当防衛 / 正当化根拠 / 二元説 / 法確証の原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、これまでの研究の方向性とは異なり、正当防衛の正当化根拠という理論的な問題についての研究を進め、その成果について、『高橋則夫先生古稀祝賀論文集(上)』(2022年、成文堂)に掲載した論文である、「正当防衛の正当化根拠としての法確証の原理の再評価」を公表した。同論文は、正当防衛の正当化根拠についての通説とされている、いわゆる二元説が、近時わが国においてもドイツにおいても批判を受けていることを契機として、同見解の内容として重要な法原理である「法確証の原理」の内実を、ドイツの文献を参照にしつつ明らかにして、法確証の原理という考え方は問題があるものではなく、むしろ正当防衛の正当化根拠として用いることに十分な利点がある見解であることを明らかにした。このような内容の研究は、本研究の目的である裁判員裁判を踏まえた相互闘争状況における正当防衛の処理基準の構築という実務的な研究に、理論的な裏付けを十分に与えるために必要不可欠なものであり、同論文の公表により、そのような目的を十分に達成することができた。、 また、これまでの研究成果を公開する手段として、現在モノグラフィーの出版を予定しているところ、今年度はそのための作業を進め、出版についての出版社との合意も成立させることができた。モノグラフィーの出版により、本研究の成果を、特に裁判官をはじめとする実務家の目に触れやすいものにすることは、裁判員裁判における相互闘争状況における正当防衛の処理をどうすべきかという実務的な問題についての研究成果を示すことになり、適切かつ合理的な刑事裁判実務に貢献するという意義を有するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、正当防衛の問題を考える上で非常に重要な問題であり、かつ難解な問題でもある正当防衛の正当化根拠の問題について、一定の見解を示す論文を公表することができたという点で、一定の成果があったと評価することができる。この問題については、正当防衛の問題に関するドイツ語の文献を十分に参照して検討することが求められるので、ドイツ語文献の翻訳に時間がかかるところ、そのような作業も十分に進めることができ、論文の公表までたどり着くことができた。 また、研究成果の公表のためのモノグラフィー出版のための準備についても、これまで発表してきた論文等に新たな判例や学説を反映させるなどの作業が必要になり、この点で一定の時間を要するものであるが、このような作業についても終えることができたという点で、十分な研究の進展があったと評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、これまでの研究計画に基づく研究を進めていく予定である。今後の予定としては、まず新たに複数出された近時の相互闘争状況における正当防衛に関する下級審裁判例を分析し、最高裁判所の判例であるが、その後に出された平成29年決定という新たな判例によってその扱いが不明確なものとなっている平成20年決定について、現在の裁判実務においては同判例はどのような意義を有しているのかを明らかにすることを目的とする論文の公表を目的とする。 また、外国法については、犯罪組織に属していることを理由に正当防衛を制限すべきとするドイツの少数説を発見したことから、同学説を検討して、わが国の裁判実務に何らかの形で役立てることができるかを検討する論文の公表も目的とする。 これらの研究により、本研究の目的である、裁判員裁判を踏まえた相互闘争状況における正当防衛の処理基準の構築のための検討は、より充実した内容の濃いものになることが期待できる。
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Causes of Carryover |
研究費の主な使途はデータベース使用料であり、その余った金額で本を買ったところ、端数としての次年度使用額が生じた。使用計画の範囲内で生じた誤差に過ぎないと思われる。
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Research Products
(1 results)