2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K13352
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Research Institution | Seiwa University |
Principal Investigator |
小野上 真也 清和大学, 法学部, 准教授 (70468859)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 共犯論 / 法人処罰論 / AIをめぐる刑事規制 / 経済刑法 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、受罰主体拡張法理の解明という全体構想のうち、第一に、共犯論における従犯固有の処罰根拠の解明から取り組む予定としていた。そこで、とくに日独の関連文献の精査を行なうことによって、他の共犯類型(共同正犯・教唆犯)との比較による従犯の法的性格付けの抽出に取り組んだ。 もっとも、その取組みが進展するにつれ、我が国における限縮的正犯概念に基づく「共犯体系」につき、異なる側面から眺めることが、従犯固有の処罰根拠の解明にとり、別途、新たなる視点をもたらすものであると考えるに至った(なお、我が国の共同正犯論につきオーストリア刑法学を参照する研究はあるが、従犯に特化した研究は見られない)。次に述べる通り、機能的統一的正犯体系は、共犯体系と異なる関与類型構想である一方、共犯体系との理論的近接性もあり、比較対象として適切であると考えた。 そこで、オーストリア刑法学における機能的統一的正犯体系における、(我が国の従犯に対応する)援助正犯概念の解釈が、いかにして従犯解釈に示唆を与えるかにつき、オーストリアで定評のある注釈書・教科書や、判例の調査・分析を進めている(令和3年度も継続中)。この調査・分析により、直接正犯・誘発正犯・援助正犯のうち援助正犯の未遂のみ不可罰であること、援助正犯の因果性に直接正犯・誘発正犯の因果性と異なる理解が予定されていること等、処罰範囲や因果関係に援助正犯固有の理解があると考えられること、量刑においても、従属的な関与につき特別の減軽事由がありこれを援助正犯の一部に対応させ得ると考えられること等、事実上、我が国と一定程度類似の状況にあるとの知見を得た。それにより、共犯体系における従犯・幇助犯と機能的統一的正犯体系における援助正犯との間には、従来からいわれるほどの径庭はなく、後者の分析から得られる知見を前者の精緻化にフィードバック可能であるとの考えを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度研究実績概要で述べた通り、本研究が進展するにつれ、従犯固有の処罰根拠の解明には、「機能的統一的正犯体系」における援助正犯概念分析をも行う必要があると考えるに至った。さらに、共犯論・関与類型論固有のテーマ分析のみならず、関連して、オーストリア刑法学における実行行為論・因果関係論の深い考察も一定程度必要であることがわかり、これらテーマへの分析に一定の時間がかかることが見込まれる。具体的には、我が国の従犯概念がとくに共同正犯との比較によって得られるところが多いため、共同正犯の「正犯性」の一部を基礎づけ得る実行行為性概念との対比、また、因果関係(とくに条件関係)が一定程度正犯性を基礎づけ得る実態も持ち得るものであるか否かの分析も検討している。これらに関するオーストリア刑法学における知見の分析に、予想外の時間がかかっており、当初予定より若干の遅れが生じている。 もっとも、その分析は着実に進捗しており、オーストリア刑法学における援助正犯と、我が国における従犯とを対比することにより、一定のフィードバックを我が国にもたらし得るであろうとの具体的な着想を得ることができている。そこで、令和3年度には、この観点から、(現在では我が国で詳細なる展開がなされていない)援助正犯と従犯との比較分析に関する論稿の脱稿を目指す。これを受けて、従犯・援助正犯という関与類型の双方を包摂する従犯固有の処罰根拠の解明を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、令和3年度には、①援助正犯と従犯との比較分析に関する論考の脱稿、②援助正犯・従犯(幇助犯)の実態を踏まえた従犯の本質分析、③それを踏まえた従犯固有の処罰根拠分析を進める。さらに、以上の研究と同時並行して、令和3年度からは、④法人処罰論における受罰主体の拡張根拠分析にも取り組む。とくに、令和3年度には、従来から判例・通説の法人処罰基礎づけ根拠と捉えられてきた、「過失推定説」を素材に、(自然人・法人の)「同一視理論」において関連自然人の「過失」がなぜ法人処罰を根拠づけ得るのかの実態解明を進める予定である。 なお、令和3年度には、当初、ドイツへの研究出張も予定していたが、今般のコロナ禍の収束見込みが現段階(令和2年5月現在)で具体的に立たないため、その状況によっては、令和4年度に繰り越すことも考えている。また、もう1つの可能性として、ドイツ出張をオンラインによるインタビューないし意見交換会に切り替えたり、あるいは、文献研究の比重を重くしたりする、といった対応も考えている。 第二に、令和4年度には、令和3年度の研究成果を踏まえ、⑤法人処罰論における組織モデルによる受罰主体拡張根拠の分析、⑥従犯固有の処罰根拠と法人処罰根拠のうち、同質性を持ち得るファクターの抽出・分析、⑦上記①~⑥の成果を踏まえた「受罰主体拡張法理」の取りまとめを予定している。
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Causes of Carryover |
①コロナ禍の影響により、当初、令和2年度に計上していた旅費分の執行をすることができなかった。状況をみて、令和3年度以降の出張ないし文献購入に切り替える等のかたちでの使用を見込んでいる。また、②検討すべきである文献の存在を令和2年度の後半に発見したものがあり、その発注を行なったが、外国語文献であったため、納品時期に一定の時間がかかり、その分について令和2年度には納品がかなわず、それに関する金額分が次年度使用にまわった。
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