2020 Fiscal Year Research-status Report
犯罪捜査を目的とした顔認証システムの利用とその規律に関する研究
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20K13353
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
尾崎 愛美 杏林大学, 総合政策学部, 講師 (40805230)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 顔認証 / 捜査 / プライバシー / モザイク理論 / 萎縮効果 / 公平 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、米国をはじめとする諸外国の顏認証技術の利用を巡る議論を参考として、わが国の捜査機関において顏認証システムの適正な利用を進めるにあたっての基本的視点の提示を試みることにある。 2020年度は、日本における顏認証システムに関する法的論点を網羅的に整理した論稿「(Governance Framework for Facial Recognition Systems in Japan)」が、Springer社より出版された書籍(「Human-Centric Computing in a Data-Driven Society」)に掲載された。また、情報ネットワーク法学会第20回研究大会で報告し(「顔認証技術の適正な利用の促進に向けた法的課題―ポートランド市顔認証技術禁止条例の検討を通じて―」)、同学会誌『情報ネットワーク・ローレビュー』第19巻に関連論文が掲載されている(「犯罪捜査を目的とした顔認証技術の利用に対する法的規制のあり方―米国の議論を参考に―」)。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートにおいて日本電機株式会社からの受託研究プロジェクトである「ヒューマンライツ・バイ・デザインの社会実装に関するチェックポイントリストの検討―法学的、技術的観点から」に事務局として参画し、第2回検討会において報告を行い(「顔認証技術の規制に関する最近の米国の動向」)、年度末シンポジウム「ヒューマンライツと調和したAI利活用を考える」においても報告者をつとめた(「顔認証技術のガバナンスについて」)。さらに、2021年3月には、米国の最新関連条例についての論稿(「米国における顔認証技術をめぐる法制度の現状と今後の方向性―Black Lives Matter運動・COVID-19緊急事態宣言を受けて―」)が公刊された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、①米国をはじめとする各国の顔認証技術の利用状況を網羅的に整理し、②顏認証システムの有する法的な問題点を抽出し、③米国における対応法令の概要を調査した。特に、②顏認証システムに関する法的論点、③米国における対応法令の概要に関しては、国内学会研究会での報告や論文の公表を比較的多数行うことができた。コロナ禍の折、参加を予定していた国際会議が延期されたことから、欧米の動向調査については専ら文献を通じた情報収集にとどまったものの、国外の出版社(Springer社)から論稿を公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、顏認証システムに関する法的論点(①プライバシー侵害、②差別・偏見、③萎縮効果)の整理をもとに、各法的論点に関する各国の議論状況を整理していくこととしたい。また、顔認証については各国で規制やガイドラインの策定が進められていることから、これらの最新動向についても引き続き調査を進めていく予定である。特に、欧州については、2021年5月現在立法が検討されているAI規則案の内容とその運用動向に重点をおきつつ、各国の法執行の動向について調査を行う。 2022年度は、2021年度の研究成果を国際会議において報告し、新たな視点を得ることを目標とする。国際会議に関しては、Human Choice and Computers Conference(HCC)を想定している。同会議は、情報処理国際連合(IFIP) が開催する情報技術に関する学術会合であり、各国の情報技術の専門家・研究者の参加が見込まれることから、闊達な議論を行うことができるものと考えている。2021-2022年度は、諸外国における議論状況の整理に努める。この点、わが国では顏認証システムを利用した捜査は実験段階から社会実装への移行段階にあるといえるが、諸外国では、既に実装されている地域も散見されている(ロンドン市等)。このような諸外国の法制度の状況について訪問調査を行い、わが国においてプライバシーや公平に配慮した顔認証システムの確立に向けた有益な示唆を含む成果を取りまとめることを目指す。 これらの研究について段階ごとに論文として公刊しつつ、学会や研究会等への参加により関連分野の研究者と議論を重ねていく予定である。これらの過程を通じて、日米の刑事訴訟法、憲法、情報法、法哲学といった異なる法分野において検討されている問題を総合的に研究し、わが国の基幹技術である顏認証技術の発展に寄与していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
COVID-19緊急事態宣言を受け、参加を予定していた国際会議が延期されたため、海外調査および学会報告と有識者への意見聴取の機会を失したことなどによる。2021年度も米国や欧州での国際会議参加および実態調査については困難な状況が続くものと思われるが、オンライン会議での報告や海外出版社を通じた論稿の発表を目指したい。
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Research Products
(8 results)